【4月15日 AFP】数十年前には、フリーズドライの粉末とペースト状の半液体だった宇宙飛行士の食事は、長い年月をかけて大きく進歩した――そして今、米国の科学者チームは、月面上のミニ温室での野菜栽培に取り組んでいる。

 年々着実に向上している宇宙食だが、米国の科学者チームによると「お楽しみはこれから」だそうだ。米科学者らは、未来の月の住人や火星基地の居住者が、新鮮な野菜などのぜいたく品を味わえる日を楽しみにしているというのだ。

 米アリゾナ(Arizona)州のパラゴン・スペース・デベロップメント(Paragon Space Development Corporation)社は、「月で花を生育するための第一歩」とする「ルナ・オアシス(Lunar Oasis)」を発表した。パラゴンは、スペースシャトルや国際宇宙ステーション(International Space Station)での米航空宇宙局(NASA)の実験に協力してきた企業。将来的には食料の栽培も計画しているという。

「ルナ・オアシス」は、高さ46センチメートルの三角形のアルミフレームに包まれたベルジャー型の小型温室。植物を安全に月面に着地させ、成長中も保護するようデザインされている。

 ルナ・オアシスを宇宙へ打ち上げるのは、オデッセイムーン(Odyssey Moon)社。オデッセイムーンは、査機を打ち上げて月に着陸させ、さらに月面を走行させることのできる参加企業に対し2000万ドル(約20億円)を提供するというコンテスト「グーグル・ルナー・エックス・プライズ(Google Lunar X Prize)」に参加している。

 小型温室にはアブラナの種子が入れられる。アブラナは、芽キャベツやキャベツなどの仲間で、耐寒性があり、食用油や家畜の飼料に用いられる植物。たった14日で種子から花に成長するため、月面の夜一晩でライフサイクルを終えることが可能だという。

 パラゴンによると、「ルナ・オアシス」の今後の実験はオデッセイ社の打ち上げスケジュール次第で、早くても2012年になるという。

■南極での水耕栽培プロジェクト

 アリゾナ大学(University of Arizona)のGene A. Giacomelli教授(植物科学)と同大学のCEAC(Controlled Environment Agriculture Center)の学生らも、まだ資金のめどはたっていないものの、月での温室計画に独自に取り組んでいる。

 CEACは現在、南極にある全米科学財団(National Science FoundationNFS)の新たなアムンゼン・スコット南極基地(Amundsen-Scott South Pole Station)で、最先端の水耕「栽培室」を運用しており、遠隔地活動の向上に一役買っている。

 南極は高高度で低気圧、摂氏マイナス100度といった環境のため、プロジェクトは月面基地の環境に「類似」したものになると、Giacomelli教授は語る。

 南極での温室運用は現在5年目。地球上で最も寒い場所で、トマトやコショウ、レタスやイチゴ、香りのよいハーブ類を提供している。週あたりの生産量は27キログラムにおよび、現地の科学者75人に1日あたり2食のサラダを提供するのに十分な量を生産している。

「SFではない。ほかの惑星に行くことさえできるなら、そこで生命を維持するだけのテクノロジーはある」(Giacomelli教授)

■宇宙時代のカギを握る植物

 宇宙で植物を育てるためのさまざまな試みが行われているが、恒久的な基地の設置のために十分な水を探すことが、最大の課題だろう。

 火星探査は、終了までに3年間かかる。そのため、植物には食料を生産する以外にも、宇宙施設の空気から毒素を取り除き、ゴミをリサイクルし、酸素を作り出し、将来の作物のための栄養素を供給するなどのさまざまな役割が求められる。

 パラゴンのジェーン・ポインター(Jane Poynter)社長は、「コロニーにはバイオ再生プログラムが必要。コロニーは恒常的にその場にとどまるもの。ピクニックかごに荷物を詰めて家に帰るような気軽なものではない」と語る。(c)AFP/Bryn Bailer