不自然な選択?危うさはらむ生殖医療の最前線
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【2月10日 AFP】カップルが、オンラインカタログを眺めながら、どんな赤ちゃんにしようかと話し合っている。目は何色?肌の色は?性別は?五輪選手になれるような子どもがいいか、それとも頭脳を優先させるか?ならば体力・知力を両方備えた子どもがいいのではないか!
こうした光景は、一部にとっては「実現してほしい夢」だろうが、優生学に基づいた不平等を押しつける「悪夢」だと考える人もいる。
そして生物学者にとっては、進化に関する疑問を提起する問題でもある。自然選択による種の変化という理論は、今月12日に生誕200周年を迎える英国の自然科学者チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)により提唱された。
だが、こと人類に関しては、この自然選択説を当てはめるのは容易ではない。人間の寿命、生殖、生存には医学、居住環境、食生活などの諸要素が影響していることは既に知られている。遺伝子選択は、人類の進化経路が(自然選択の場合よりも)大幅に変化する可能性があることを示している。
■ドナーを選択できるサービス
冒頭のオンラインカタログは、もはやSFの領域にとどまっていない。
米国では、すでに多数のクリニックが、子どもが欲しいカップルに対し精子・卵子提供者の詳しいプロフィールを紹介するサービスを始めている。たとえばアトランタ(Atlanta)のXytex Corporationは、遺伝的な身体的特徴(まつげの長さ、そばかすの有無、耳たぶの形など)の長いリストを提供している。
同社は、ドナーの病歴の概要も提供。追加料金を払えば、ドナーの性格や学歴を知り、ドナーが書いた作文やドナーの乳児期および成人になってからの写真を見ることもできる。
こうした情報の大半は遺伝子とは何ら関係がなく、たとえ関係しているとしても、約束通りの赤ちゃんが産まれるとは限らない。
それにもかかわらず、こうしたサービスの利用者は後を絶たない。カップルの男女いずれかが不妊症であるというケースが多い。
ドナーの卵子と精子を使って作製された胚(はい)は希望者に販売され、その子宮に移植される。科学界にはこうした商業行為を規制する動きはなく、一部の国では規制する法律もない。米テキサス州にはかつて「胚バンク」があったが、倫理面で物議を醸し、サービスを停止した。
■ずれる「着床前診断」の目的
こうしたサービスの助けを必要としなかった親でも、「着床前診断」は強く希望するかもしれない。遺伝的な問題や先天的な病気の有無を調べるのが本来の目的だが、性別や身体の特徴を知りたいという意図も見え隠れする。
これについて、カリフォルニア州オークランドの遺伝学・社会センター(Center for Genetics and Society)のマーシー・ダーノフスキー(Marcy Darnovsky)氏は、「こうした選択技術には慎重になる必要がある」と警鐘を鳴らす。「女の子がほしい、男の子がほしいという気持ち自体は悪いことではないが、ネット上には『こういうタイプの女の子が欲しい』といった具体的な希望がよく見かけられる。希望通りの子どもではなかった場合はどうするのか?おなかに戻すとでもいうのか?」
■遺伝子操作への危惧
さらに問題含みのシナリオは、遺伝子選択から遺伝子操作へと飛躍してしまうことだ。
これには2通りの方法が考えられる。遺伝子治療では、たとえば病変した器官を回復させるために遺伝子を操作する。しかし、生殖系列遺伝子治療(germline therapy)とよばれる治療は、ヒトゲノム自体を変化させるこため、ゲノムの変化が子孫に継承されていく可能性がある。
ワシントン大学(University of Washington)のピーター・ワード(Peter Ward)氏は、「遺伝子操作は、特定の性別の子どもが欲しい、または美しい、頭がいい、音楽の才能がある、優しいといった特性を授けたいと願う親が強く望むようになるかもしれない」と分析する。「いつの日か、まったく新しい人類を作り出すことが可能になるかもしれない」
しかし、研究者の意見が一致しているわけではない。ハーバード大学(Harvard University)の進化生物学者、スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)氏は、「こうした心配はすべて見当外れだ。遺伝子というものはおそろしく複雑で、特定の特徴を簡単に再現できるものではない」と話す。たとえば、ほぼすべての病気、特徴は、1つや2つの遺伝子ではなく多くの遺伝子の相互作用により決定されているという。また、知性や音楽的才能を決定するマスター遺伝子といったものも存在しないという。
ピンカー氏は、「(遺伝子操作により)赤ちゃんに何らかの異常が発生するリスクが5%以上高まるのでは」との懸念を示した。「テストは簡単で安全だが、遺伝子操作は困難でリスクも伴う」(c)AFP/Marlowe Hood
こうした光景は、一部にとっては「実現してほしい夢」だろうが、優生学に基づいた不平等を押しつける「悪夢」だと考える人もいる。
そして生物学者にとっては、進化に関する疑問を提起する問題でもある。自然選択による種の変化という理論は、今月12日に生誕200周年を迎える英国の自然科学者チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)により提唱された。
だが、こと人類に関しては、この自然選択説を当てはめるのは容易ではない。人間の寿命、生殖、生存には医学、居住環境、食生活などの諸要素が影響していることは既に知られている。遺伝子選択は、人類の進化経路が(自然選択の場合よりも)大幅に変化する可能性があることを示している。
■ドナーを選択できるサービス
冒頭のオンラインカタログは、もはやSFの領域にとどまっていない。
米国では、すでに多数のクリニックが、子どもが欲しいカップルに対し精子・卵子提供者の詳しいプロフィールを紹介するサービスを始めている。たとえばアトランタ(Atlanta)のXytex Corporationは、遺伝的な身体的特徴(まつげの長さ、そばかすの有無、耳たぶの形など)の長いリストを提供している。
同社は、ドナーの病歴の概要も提供。追加料金を払えば、ドナーの性格や学歴を知り、ドナーが書いた作文やドナーの乳児期および成人になってからの写真を見ることもできる。
こうした情報の大半は遺伝子とは何ら関係がなく、たとえ関係しているとしても、約束通りの赤ちゃんが産まれるとは限らない。
それにもかかわらず、こうしたサービスの利用者は後を絶たない。カップルの男女いずれかが不妊症であるというケースが多い。
ドナーの卵子と精子を使って作製された胚(はい)は希望者に販売され、その子宮に移植される。科学界にはこうした商業行為を規制する動きはなく、一部の国では規制する法律もない。米テキサス州にはかつて「胚バンク」があったが、倫理面で物議を醸し、サービスを停止した。
■ずれる「着床前診断」の目的
こうしたサービスの助けを必要としなかった親でも、「着床前診断」は強く希望するかもしれない。遺伝的な問題や先天的な病気の有無を調べるのが本来の目的だが、性別や身体の特徴を知りたいという意図も見え隠れする。
これについて、カリフォルニア州オークランドの遺伝学・社会センター(Center for Genetics and Society)のマーシー・ダーノフスキー(Marcy Darnovsky)氏は、「こうした選択技術には慎重になる必要がある」と警鐘を鳴らす。「女の子がほしい、男の子がほしいという気持ち自体は悪いことではないが、ネット上には『こういうタイプの女の子が欲しい』といった具体的な希望がよく見かけられる。希望通りの子どもではなかった場合はどうするのか?おなかに戻すとでもいうのか?」
■遺伝子操作への危惧
さらに問題含みのシナリオは、遺伝子選択から遺伝子操作へと飛躍してしまうことだ。
これには2通りの方法が考えられる。遺伝子治療では、たとえば病変した器官を回復させるために遺伝子を操作する。しかし、生殖系列遺伝子治療(germline therapy)とよばれる治療は、ヒトゲノム自体を変化させるこため、ゲノムの変化が子孫に継承されていく可能性がある。
ワシントン大学(University of Washington)のピーター・ワード(Peter Ward)氏は、「遺伝子操作は、特定の性別の子どもが欲しい、または美しい、頭がいい、音楽の才能がある、優しいといった特性を授けたいと願う親が強く望むようになるかもしれない」と分析する。「いつの日か、まったく新しい人類を作り出すことが可能になるかもしれない」
しかし、研究者の意見が一致しているわけではない。ハーバード大学(Harvard University)の進化生物学者、スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)氏は、「こうした心配はすべて見当外れだ。遺伝子というものはおそろしく複雑で、特定の特徴を簡単に再現できるものではない」と話す。たとえば、ほぼすべての病気、特徴は、1つや2つの遺伝子ではなく多くの遺伝子の相互作用により決定されているという。また、知性や音楽的才能を決定するマスター遺伝子といったものも存在しないという。
ピンカー氏は、「(遺伝子操作により)赤ちゃんに何らかの異常が発生するリスクが5%以上高まるのでは」との懸念を示した。「テストは簡単で安全だが、遺伝子操作は困難でリスクも伴う」(c)AFP/Marlowe Hood