【7月11日 AFP】古代の天文学者たちは、月も「母なる地球」と同様に豊かな水に溢れていると想像し、数々の「海」に想像力に富む名前を付けた。

 もちろん宇宙時代の今日では、月の「海」は荒廃し乾燥した玄武岩の平原「クレーター」であることが分かっている。そのためこれまで月は、生命に不可欠な物質の存在しない、生存に適さない土地とのレッテルを張られてきた。しかし、最近のある研究から期待される事柄が事実だとしたら、こうしたイメージは塗り替えられるべきかもしれない。

 英科学誌「ネイチャー(Nature)」は10日、月にその誕生間もないころから水が存在している証拠を示す論文を掲載した。この研究により、月の極地付近で水分が発見されるのではないかとの憶測も強まった。

 現在有力な説によると、月は約45億年前、火星サイズの物体が誕生間もない地球に衝突した際、融解した破片が地球の軌道に放出され、合体し冷却した結果、地球の衛星として生まれたといわれている。この衝突の衝撃で、原始の月の元素のうち、水を含む軽元素は瞬時に蒸発したと考えられている。

 しかし、アポロ(Apollo)計画によって持ち帰られたガラス質で泡状の物質を詳細に調べた結果、驚くような事実が隠されていることが分かった。

 約35億年前の火山噴火によりできたこれらの物質の従来調査では、水の存在を示す証拠は発見されず、「水のない月」という筋書きが変わることはなかった。

■46ppmの微少な水の集積を発見

 米ロードアイランド(Rhode Island)州にあるブラウン大学(Brown University)のAlberto Saal氏率いる地質学者チームは今回、「二次イオン質量分析」を改良し、新たな検証を行った。この方法では、従来の10倍精密な観察ができる。カーネギー科学研究所(Carnegie Institution for Science)のエリック・ハウリ(Erik Hauri)氏によると、その結果、気泡の中に46ppm程の極めて微少だが興味深い水の集積を発見した。

 研究チームは、この水こそ、噴火以前の月内部にはるかに大量の水が存在していた可能性を示すものだと考えている。

 チームが算出したところによると、噴火以前の月のマグマには750ppm程度の水分が含まれてた可能性がある。またこの水は、かつて地球の海底火山が噴火した際、原始のマグマに含まれていたものと同質だという。

■クレーター深くに氷の存在?

 融解した隕石(いんせき)が表面に衝突し冷却された時、月には大気がないことから水分の95%が蒸発し宇宙に放出され、永遠に失われてしまった。だが残りの水分が両極地付近に移動し、クレーターの深く、永久に光の当たらない場所に氷として残っている可能性もある。

 月の極地付近に氷が存在する可能性については、一時は非現実的なものとして否定されたが、1994年に米国の月探査衛星「クレメンタイン(Clementine)」が持ち帰ったデータにより、近年信憑性(しんぴょうせい)が高まっている。

 さらなる発見を求め、米航空宇宙局(NASA)は今年11月24日以降、探査機「ルナー・リコナイサンス・オービター(Lunar Reconnaissance OrbiterLRO)」と「エルクロス(LCROSSLunar Crater Observation and Sensing Satellite)」の打ち上げを予定している。

 水の発見は非常に重要だ。月の歴史を知るという好奇心を満たすだけではなく、これにより有人月探査の可能性も見えてくる。(c)AFP