【6月27日 AFP】宇宙科学者の間で約30年にわたり議論されてきた太陽系最大の謎の1つ――「なぜ火星には2つの顔があるのか?」。この謎への新たな答えが、26日の英科学誌「ネイチャー(Nature)」に掲載される。

 70年代後半、米国の火星探査機「バイキング(Viking)」による画像は、火星の北半球が巨大な盆地であり、そこに広大な荒れた海が存在した可能性を示唆した。

 これに対し南半球は、まったく異なる様相をしている。あちこちにクレーターがある険しい高地で、北半球と比較して最大8000メートルも標高差がある。

 ローマ神話に登場する2つの顔を持つヤヌス神を思わせる火星のこの二面性について、これまで2つの説があった。

■楕円のクレーターは隕石が原因

 1つは約38億年前に火星内部で激しい火山活動があり、表面に湧昇現象が起きたという説。これにより赤道付近に巨大な隆起が出現したとされる。

 もう1つは1984年に発表された説で、巨大な隕石(いんせき)が誕生間もない火星に衝突した結果、北半球に盆地ができたというものだ。

 後者については、盆地が円形ではなく楕円(だえん)形で、クレーターの縁の高さが大きく異なることから、その可能性はほとんどないとみられてきた。

 しかし今回、米航空宇宙局(NASA)とマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)の研究チームは、後者の有力性を裏付ける根拠を示した。

 楕円形のクレーターは、月の南極-エイトケン盆地(South Pole-Aitken Basin)など至る所に存在し、惑星に衝突する角度によってはそうなることもあるという。クレーターの縁の高さが異なる点については、周辺で火山が噴火したためではないかというのが研究チームの見方だ。

■両半球の境界線と楕円が一致

 研究チームは、火星探査機マーズ・リコネサンス・オービター(Mars Reconnaissance OrbiterMRO)およびマーズ・グローバル・サーベイヤー(Mars Global SurveyorMGS)が収集したデータを使用。火山出現前の標高の再現を試みた。その結果、太陽系最大となる広大な楕円形のクレーターが姿を現した。

 MITのジェフリー・アンドリュース・ハンナ(Jeffrey Andrews-Hanna)氏は、「実際の楕円と実験で出現した楕円を比べた結果、驚くほどの一致が見られた」と語った。

 さらに外輪の痕跡も発見されたが、これは隕石の衝突でできた盆地の典型的な特徴で、隕石の衝突以外ではこれほど大規模な楕円形のクレーターはできないという。

■太陽系誕生の裏付けにも

「ネイチャー」には、さらに2つの研究結果が掲載されている。うち1つは、火星に衝突して盆地を形成した隕石は直径2000キロに及んだと推論。冥王星よりも大きな隕石が、45度の角度で衝突したとしている。

 この研究結果は、隕石の衝突によって現在の太陽系がどのように形成されたかという、過去20年かけて構築された論証をさらに裏付けるものとなる。

 1つの説としては、誕生したばかりの地球に火星規模の惑星が衝突して、地球の地表の一部が宇宙に放出、それが地球の引力により丸みを帯びるようになり、月になったと考えられる。

 アンドリュース・ハンナ氏は「初期の太陽系は、惑星としては非常に危険な場所だったが、このような隕石の衝突がなければ、太陽系は現在のようではなかっただろう」と語る。(c)AFP/Richard Ingham