【3月5日 AFP】4年前にインドネシアのフロレス(Flores)島の洞穴で化石が発見された人類「ホビット(Hobbit)」は、現生人類のホモ・サピエンス(Homo sapiens)の別系統ではなく、妊娠中のヨウ素不足で成長が抑制されたホモサピエンスだとする説が「英国王立協会紀要(生命科学版、Proceedings of the Royal Society B)」に発表された。

■発見チームは「新種ホモ・サピエンス」と主張

 英国の作家、J・R・R・トールキン(J.R.R. Tolkien)の小説に登場する小人にちなんだ「ホビット」の愛称を持つこの人類は、身長1メートルほどでチンパンジーサイズの脳を持ち、1万8000年程前にフロレス島に生息していたとされる。

 2004年に化石を発見したオーストラリアとインドネシアの合同チームは、この洞穴の住人を「ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis、フロレスの人の意)」と名付けた。ホモ・サピエンスと共通祖先種の原人ホモ・エレクタス(Homo erectus)から進化し、今から100万年近く前にフロレス島にたどり着いた種だと主張している。

 ほかの世界から隔離され、入手できる食料環境に適応して小型化したとみなされた。共に発見された石器や動物の骨から、狩猟生活を送り、道具を使って肉を食べていたことがうかがえる。またこの「ホモ・フロレシエンシス」、通称「ホビット」は非常に繁栄し、長い間より大きな脳を持つホモ・サピエンスと親類種として共存していたという説がチームから発表された。

■ヨウ素不足の食生活が原因とする新説

 しかし、この説が一見穏やかな人類学界に大論争を巻き起こした。最近ではオーストラリアの研究者らが同紀要に「ホビットは、甲状腺が機能不全に陥るクレチン病を患ったホモ・サピエンスだ」とする説を発表。その結果、ホビットは著しく成長を妨げられ、知的技能や運動技能の発達が遅れたというのだ。

 論文共著者のロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)のPeter Obdendorf氏は「クレチン病は妊娠中のヨウ素不足とその他多くの環境的要素によって発症する。クレチン病患者は1メートル以上には成長しない上、ホビットと非常によく似た骨の特徴を持つ」という。ホビットはクレチン病をわずらったホモ・サピエンスで、新種ではないという主張だ。

 研究は脳下垂体を収容する「下垂体窩」と呼ばれる頭蓋前方のくぼみに着目している。ホビットの下垂体窩は異常に拡大しているが、これはクレチン病の1種でみられる特徴で、この患者の脳は通常の半分程度の大きさになるという。形態的には未発達の手根骨やあごなどの特徴も、この病気と一致するという。こうした形態から招かれる結果として、ホビットは精神的な成長や運動技能が抑制されたと考えられるという。

 ホビットの食生活にヨウ素が決定的に不足していたことも研究は指摘している。ホビットの居住地は、ヨウ素の主な供給源となる魚介類が手に入る沿岸地域からは少なくとも24キロ離れていたとみられる。(c)AFP/Richard Ingham