【9月13日 AFP】人類の近縁にあたるネアンデルタール人(Neanderthal)が絶滅したのは、地球寒冷化が原因ではなかったようだ。英国とギリシャの研究チームが13日、寒冷化絶滅説を否定する研究結果を英科学誌「ネイチャー(Nature)」に発表した。

 ネアンデルタール人は現生人類のホモサピエンスよりも小柄なずんぐりした体格で、人類の祖先ではないことが分かっている。欧州、中央アジア、中東に約17万年にわたって住み、およそ2万8000年から3万年前に絶滅したとされるが、絶滅の理由をめぐっては古生物学者の間でさまざまな論議がかわされてきた。

 その1つが、急激な寒冷化によって絶滅したという説だ。この説によれば、数が激減したネアンデルタール人は、最後の時を現在のスペイン、ジブラルタルの洞くつでしのいだという。

 ネアンデルタール人の歴史をたどる上で問題なのは、その絶滅時期が正確には分かっていないことだ。

■困難な年代特定

 年代の推定には、化石に残っている炭素14(放射性炭素)のレベルから測定する方法が用いられることが多い。炭素14は一定の速度で崩壊するため、現代のレベルと比較することで化石の年代が推定できる。時計を逆回りさせるようにして、その生物が生きていた時代を導き出すのである。

 しかし約2万1500年以上前になると、地球環境の激変のせいで崩壊速度に幅が生じるため、いわゆる炭素年と暦年の正確な照合が困難になる。つまり逆回りの時計が、正確な時間を告げてくれなくなるのである。

 そこでイングランド北部リーズ大学(University of Leeds)のPolychronis Tzedakis氏率いる研究チームとギリシャのエーゲ大学(University of the Aegean)のチームは、年代ではなく気候に基づく測定法を採用した。ベネズエラのカリアコ海盆(Cariaco Basin)の海底から採取された堆積物コアから明らかになった過去の気候変動の記録を、炭素年と直接照合した。

 これに基づき同チームは、ネアンデルタール人が絶滅したとされる年代について検証。この年代は、ジブラルタルのゴーラムの洞窟(Gorham’s Cave)で見つかったネアンデルタール人の工芸品が根拠となっている。

 絶滅の時期は3万2000年前、2万8000年前、2万4000年前という3つの説が最も有力で、これは直近の氷河期とほぼ一致する。氷河期には、その名から推測されるのとは違い、実際には温暖期と寒冷期がある。最も急激な変化が起きたハインリッヒイベント(Heinrich Events)では、北大西洋から欧州西部へと流れ込む温暖な海流が一時的に停止し、この地域が寒冷化した。

 しかしTzedakis氏によると、3つの時期はいずれもハインリッヒイベントとは重ならない。そこから、「大規模な気候変動がネアンデルタール人絶滅の原因になったという説は排除できる」との結論を導き出せるという。ただ、極寒期が長期的に続いたことで数が徐々に減少した可能性も否定できない。その一方で、ネアンデルタール人はそれ以前の氷河期に耐えてきた、たくましい種である点も見過ごせないのだという。

■人類の中にネアンデルタール人の遺伝子が?

 では、気候変動でなければ何が絶滅の原因となったのだろうか。

 残る学説は2つある。1つは、ネアンデルタール人が現生人類に滅ぼされたとする説。現生人類は石器を使い、食糧や居住地を奪うだけの知恵も持っていた。

 もう1つは、ネアンデルタール人と現生人類の血が交わったとする説。もしこの説が正しければ、ネアンデルタール人の直系の血筋は途絶えても、その遺伝子はヒトゲノムに記録されてわれわれ人類の中に生き続けているのかもしれない。(c)AFP/Richard Ingham