【7月7日 AFP】世界初の顔面移植手術を受けた女性が、1年半ぶりに心境を語ったインタビューが、6日付けの仏紙「ルモンド(Le Monde)」土曜版に掲載された。

 2005年に飼い犬にかまれ鼻、口およびあごの移植を受けたIsabelle Dinoireさん(40)は、「笑顔や顔の表情で意思疎通できる、顔を持った人間の世界に戻った。生き返った気がする」と喜びを語った。その一方で、新しい「顔」との適合に悩んだこと、さらに臓器を提供してくれた人に対する責任感も明かした。

■新しい人格とのかっとう

「わたし自身とわたしの人格の一部は永遠に失われてしまった。以前の自分の思い出を大事にしている」とシングルマザーのDinoireさんは語る。「この顔はわたしではない。これからも自分の顔だとは思えないだろう。最初は四六時中鏡を見ては以前の自分の痕跡を探していたし、つらすぎて以前の自分の写真を見ることもできなかった」

 しかし現在は「移植と一体化してきた」という。「以前の写真を見る必要もないし、なんの問題ない」

 ルモンド紙はDinoireさんの現在の顔写真を掲載しなかったが、「信じがたいほど普通」で「調和の取れた」顔と表現した。Dinoireさんは、顔の動かし方を習得するため話し方セラピーを受けるなどたいへんな努力を重ねたという。「まだたくさん練習が必要だが、達成感でいっぱいだ」

■提供者たちへの責任感

 Dinoireさんは執刀に当たった医師だけでなく、彼女に顔を提供してくれた若い女性にも「非常に大きな責任感」を感じているという。

  「1日も彼女のことを思わなかった日はない。彼女はいつもわたしの心の中にいる。説明するのはとても難しいが、彼女の家族にどれだけわたしが感謝しているかを知ってほしい」

 Dinoireさんの手術に続き、フランスや中国など世界各地で顔面移植手術が実施されており、そのことについても誇りを感じているという。これを機に、臓器提供に対する関心が高まることを願っている。

 依然として拒絶反応が起きる危険があり、実際にこれまで2度、拒絶反応と疑われる症状が発症している。それでもDinoireさんは「生きたい」という。

 「普通の生活に戻って、仕事をしたい。尊厳を取り戻し、平和な生活を送りたい。わたしには静かに人生をやり直す権利があるのだから」(c)AFP