【5月31日 AFP】米国の研究者が31日、「台風などの熱帯低気圧は、海の熱を分散するうえで大きな役割を果たしているが、一方で地球温暖化にも重要な影響を与えている」との学説を英科学誌『ネイチャー(Nature)』に発表した。

 米インディアナ(Indiana)州パデュー大学(Purdue University)のマシュー・フーバー(Matthew Huber)準教授とライアン・スライバー(Ryan Sriver)博士研究員は、熱帯低気圧によって海面から奪われた熱が、「どこで、どのように放出されるか」という問題の解析に、世界で初めて挑戦した。

 コンピュータモデルで、熱帯的気圧の通過する前と後の「海面温度」、「水深」、「海流」を解析したところ、熱帯低気圧の周囲では、回転するミキサーの刃を、何かの生地が入ったボウルの中に入れた時のような反応が起きることがわかった。つまり、渦巻き状の風にかき回された海面の熱は、海底に押し下げられると同時に、地球の両極に向かって循環していくという。

 西大西洋のハリケーンや西太平洋の台風、インド洋のサイクロンなどの熱帯低気圧は、その強い渦巻き状の風で、海面での蒸発を促進させ、通過後の海面水温を低下させることは、これまでにも知られてきた。

 しかし、一般的な気候モデルは5日以上継続して吹く風のみ考慮しているため、ほとんどの暴風は除外されてしまう。このためフーバー準教授らは、熱帯低気圧の役割はこれまで見過ごされてきたと考えている。

 2人は、熱帯低気圧による海面攪拌(かくはん)作用が「熱帯地域で高い気温を安定させ、海面付近の海水をかき混ぜ、温暖化の影響が極地でより大きく現れる極地増幅を引き起こす、基本的なメカニズムである可能性」を指摘する。

 論文によれば、海が運ぶ熱のほぼ7分の1は、熱帯低気圧に関係している。地球の表面の3分の2を覆い、大気中の熱を大量に吸収する海は、今後の気候変動を大きく左右すると考えられることから、今回の発見は重要だ。

 もし熱帯低気圧が多発するようになった原因が海水温度の上昇てせあり、高緯度地域に暖かい海水を循環させる原因が熱帯低気圧であれば、この連鎖が気候に大きく影響する可能性がある。研究者は警告を発するとともに、今後一層の調査が必要だと述べている。(c)AFP