【5月26日 AFP】膨大な医学的・遺伝子学的データを立体的な動画に変換して表示する、世界初の「人体のバーチャル・モデル」がカナダで開発された。医薬品の試験や、外科医の訓練での活用が期待されている。

■人体の組織や血管までを立体的に再現した3D映像

 研究者たちが「洞窟」と呼ばれる小室に入ると、男性の精密な人体モデルが、まるで空中に浮かんでいるように見える。、壁と床から投影された映像は、皮膚と骨格が透明となり、動脈、静脈など3000以上の組織をつぶさに観察できるのだ。

 この人体モデルは今週、カナダ西部のカルガリー大学(University of Calgary)で公開された。カルガリー大学生化学・分子生物学部のアンドレイ・チューリンスキー(Andrei Turinsky)氏は、「解剖学、化学、組織に至るまでの情報を集めて、人体全体をモデル化することが初めて可能になった」と話す。

 コンピュータ・プログラミング言語のJava3Dを使用して、解剖学の基礎的テキストに掲載されている情報を基に、グラフィックデザイナーがさまざまな部位や臓器のアニメーションを作成して生まれたのが、このモデルだ。「まるで生きているような画像が手に入る」とチューリンスキー氏は話す。

■当初の開発目的を越え、治療の可能性を大きく広げるシステムとなる

 研究者らが「洞窟の男」と呼ぶこのモデルはコンピュータで自在に操作できるため、複雑な病気や人体の発生学的な現象のより深い理解が可能になるという。

 特殊な眼鏡をかければ、このモデル上で難病の原因となるDNAの欠陥を見つけて、遺伝子を操作することや、病気の進行、化学物質に対する身体の反応などを観察することも可能なのだ。

 このシステムを使えば医薬品が有効かどうか、生体細胞で試験する前に判断できるようになるため、臨床実験前の動物や人体、献体された遺体を使った実験を行なわずに済ませたり、手術計画の立案、新しい外科手術手法の開発にも活用できる可能性がある。

 当初、このプロジェクトはマッサージ療法士の訓練に使うことを目的としていたが、このシステムが持つより広い可能性に気づき、コンピュータ、生物、数学、などの専門家グループが6年を費やして作成した。

 「医師や患者に、身体の中で実際に起こっている現象を見せることができるようになる。医学用語や医学的なデータの分析に詳しくない人も、目で見ることで理解しやすくなるから、生物学の教科書よりもずっと分かりやすいはず。最初は患者に病気の様子を示すために作ったが、最終的には、病気の治療をしなかった場合はどうなるのかや、特定の遺伝子が正常に機能しない場合にどうなるかを予測することも可能になるはず」とチューリンスキー氏は語る。

 また、今後2年間でこのシステムの利用が広がっていくだろうとも述べた。(c)AFP/Michel Comte