【11月1日 AFP】ハリケーンから温帯低気圧に変わった「サンディ(Sandy)」が米東海岸で猛威を振るった10月29日夜、マイクロブログのツイッター(Twitter)上で多数のフォロワーを持つ有名ユーザーが尾ひれのついた誤情報を流していたとして、批判と憤りの的となっている。投稿された誤情報の幾つかはまたたく間に広まり、当局は対応に追われたが検証の結果、全て30日に否定されている。

■「NY証取が浸水」「NY全市で停電」で起訴も検討

 誤情報を広めたとして集中的に非難を浴びているアカウントは@ComfortablySmugだ。29日夜、ニューヨーク証券取引所(New York Stock ExchangeNYSE)の立会場が浸水し、水深は1メートル近くに達しているとのツイートを投稿。この情報はすぐにNYSEによって否定されたものの、642回もリツイート(再投稿)で拡散され、ついには全米テレビ局が報じる騒ぎにまでなった。

 @ComfortablySmugはまた、米電力会社コン・エジソン(Con Edison)がニューヨーク(New York)市内の全電力を停止するとツイート。コン・エジソンは即座に「誤情報だ」とツイートを強く非難した。

 ネット上の検証者の1人は、@ComfortablySmugについて「最悪の『釣り師』だ」と批判した。「釣り」とは、うそや誤った情報をわざと流して反応を楽しむいたずらのことだ。ニューヨーク市議会のピーター・バローン(Peter Vallone)議員は、このユーザーを「起訴できるかどうか」マンハッタン(Manhattan)地区連邦検事局と協議中だとAFPに語った。

■身元特定され謝罪

 騒動が大きくなってからずっと沈黙していた@ComfortablySmugは、31日夜になって「市民の皆さんに心から、無条件に謝罪する」とツイート。「無責任で不正確な投稿をした」「全責任を負う」と述べた。

 当初、このアカウントを運営する人物の正体については分かっておらず、プロフィール欄によれば「金融、ジン、政治、食、おしゃれ、新しい人との出会い」に興味があり、また共和党のミット・ロムニー(Mitt Romney)大統領候補の支持者とみられていた。その後、ソーシャル系ニュースサイト「バズフィード(BuzzFeed)」が31日までに、同アカウントの主は29歳のヘッジファンド・アナリストで、ニューヨーク市議選で共和党のクリストファー・ライト(Christopher Wright)候補の選挙対策委員長を務めていると特定。@ComfortablySmugは身元は明かさなかったものの、ライト議員の選対本部の職を辞したことは認めた。ライト議員側も、選対委員長が交代したことをウェブサイトで発表している。

 謝罪コメントに対しツイッター上では「そもそもなぜ、うその投稿などしたの?」「おわびに被災者の救済に行くべきだ」という返信や、偽情報のためにその身を危険にさらした記者たちに償いをしろ、といった意見が出されている。

■「サメが泳いでいる」「病院で火災」

 ツイッターでは他にも、「人びとが建物に閉じこめられている」「病院で火災が発生した」といった投稿、さらに冠水した道路を泳ぐサメなどの偽写真まで、多くの誤情報が山火事のように一気に広まった。

 ポータルサイト「MSN」の編集者トム・フィリップス(Tom Phillips)氏は、ブログプラットフォーム「タンブラー(Tumblr)」に「Is Twitter Wrong?(ツイッターは間違っている?)」と題した記事を掲載し、偽写真を集めて検証している。

 同記事によると、たとえば数千回もリツイートされた恐ろしく巨大な雲がニューヨークの上空を覆う写真は、実は1年以上前のものだった。バージニア(Virginia)州にある「無名戦士の墓」の前で警護にあたる米軍兵士の勇姿の写真も広くリツイートされたが、実際は9月に撮影されたものだったことが警護担当連隊のツイッターアカウントにより指摘された。

■真偽確認は「消費者が自分の責任で」

 米非営利調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)のメディア調査部門PEJ(Project for Excellence in Journalism)のエイミー・ミッチェル(Amy Mitchell)副部長は、誤情報の拡散について、インターネットの発展に伴いニュースの即時性が求められている現象の帰結だと分析する。

「どの情報源が信頼できるのか、ニュースの消費者は自分自身で確かめられなければならない。消費者の責任は増している」と同氏は指摘している。(c)AFP