140文字の外交、SNSは「21世紀の国政術」
このニュースをシェア
【10月23日 AFP】駐中国カナダ大使が中国版ツイッター「新浪微博(Sina Weibo)」に自分の自動車の写真を投稿したとき、瞬時に大きな反響が生じ、多くの外交官ががく然とするような方法で、カナダのイメージ向上がもたらされる出来事があった──。
中国のネットユーザーたちは、当時の駐中国カナダ大使だったデビッド・マルルーニー(David Mulroney)氏が、中国当局の高官たちが好む高級車ではなく、比較的低価格の自動車に乗っていたことに驚いた。この出来事を通じてカナダ政府は、汚職や透明性をめぐる議論を幅広い聴衆に向けて行ったことになる。
「ソーシャルメディアなどのデジタルツールを利用する政府は増えている」と、この問題を取り上げた書籍「Diplomazia Digitale」の著者、アントニオ・デルーダ(Antonio Deruda)氏は語る。「これは政府にとって非常に役立つ可能性のある重要なプロセスだ。ソーシャルメディアを通じ、外国の人々と対話をすることが目標である」
人間関係や政府との関わり方がウェブの存在により変化したこの世の中で、外交目標を達成するためのデジタルツールの利用はますます増えている。米国はこれを「21世紀の国政術(21st century statecraft)」と呼ぶ。
この潮流の最前線にいるのは米国政府だ。そしてこれを主導するのは、2008年の大統領選民主党候補者選びでハイテクに詳しいバラク・オバマ(Barack Obama)氏に敗北し、ソーシャルメディアの力を痛感したヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官である。
現在、ツイッター(Twitter)には大使館や大使のアカウントも含め、政府関連のアカウントが300ほどあり、また米SNSフェイスブック(Facebook)には400ページ、さらに動画サイトのユーチューブ(YouTube)には180チャンネルほどが存在する。
一例を挙げると、駐シリア米国大使のロバート・フォード(Robert Ford)氏は、大使館のフェイスブックページで民間人居住地域を移動する軍部隊を撮影した衛星画像を公開し、シリア政府とプロパガンダ合戦を繰り広げている。
また米国務省も、イランの人びとと制裁措置や米国留学などの問題について交流する場を、米グーグル(Google)のSNS「Google+」が提供するグループ動画チャットサービス「ハングアウツ(Hangouts)」に設置した。
「これらの技術を使う利点の一つは、われわれが実際に外交的プレゼンスのない場所に対してだ」と、米国務省のデジタル戦略担当副次官補のビクトリア・エッサー(Victoria Esser)氏は語る。
■「外の世界との交流は不可欠」
米国以外の国々でも、政治的影響力を高めたり、外国の投資家や観光客を誘致しようとの目的でこの動きに乗り出していることが見受けられる。
たとえば、現代アラブ女性の象徴とみなされているヨルダンのラニア王妃(Queen Rania)は、ヨルダンのソフトパワー推進において鍵となる財産だが、ツイッター上ではさらに力強く、世界中から230万人にフォローされている。
「ラニア王妃は中東情勢や政治問題に関心の高い層にフォローされているだけではない。彼女がショップで何を買ったのか、国外でどこを訪れるのかといったことに興味のある人びとにも、フォローされている」と、アントニオ・デルーダ氏は説明する。
「外交問題を追うような、従来と同種の人びとのみならず、より幅広い聴衆を獲得できること。これがデジタル外交の肝だ」
だが一方でその即時性とアクセス性ゆえに場違いなコメントをした際には、一瞬にして激論を巻き起こす「地雷原」となるのがソーシャルメディアだ。
駐カナダのパレスチナ代表を務めていたLinda Sobeh Ali氏は、パレスチナの少女が詩を朗読する動画をリツイートしたために、2011年10月に解任された。詩は清らかに始まったものの、後半部分では「シオニズムを破壊する」といった内容に変化していったとされる。
またソーシャルネットワークは、公人同士の口論の場にもなる。
5月、駐ロシア米国大使のマイケル・マクフォール(Michael McFaul)氏による米露関係のスピーチに対し、ロシア政府がマクフォール氏をツイッターで激しく非難した。ネットユーザーたちは、ロシア外務省が連続9件のツイートでマクフォール大使をこき下ろしているのを面白おかしく楽しんだ。
ソーシャルメディアに詳しいイタリア外務省は、ソーシャルネットワークにはリスクが伴うことを理解している。ジュゼッペ・マンゾ(Giuseppe Manzo)外務省報道官は「ソーシャルメディアによって我々の声が届く範囲ははるかに大きくなるが、同時にリスクも大きくなる。今はまだ適応の最中だ。これまで通りの外交も不可欠だと信じている」と語った。
一方、アントニオ・デルーダ氏は、ソーシャルネットワークを通じた交流と共に政府が行動を起こすことも同じく重要だと指摘する。「相手と会話になって、私が政策や国のイメージ、指導者などについて考えを伝えるとしよう。それで相手が何も変えなかったとすれば、その対話は終わることになるだろう。これがデジタル外交の将来にとって非常に重要なポイントだ」と語った。(c)AFP/Marianne Barriaux
中国のネットユーザーたちは、当時の駐中国カナダ大使だったデビッド・マルルーニー(David Mulroney)氏が、中国当局の高官たちが好む高級車ではなく、比較的低価格の自動車に乗っていたことに驚いた。この出来事を通じてカナダ政府は、汚職や透明性をめぐる議論を幅広い聴衆に向けて行ったことになる。
「ソーシャルメディアなどのデジタルツールを利用する政府は増えている」と、この問題を取り上げた書籍「Diplomazia Digitale」の著者、アントニオ・デルーダ(Antonio Deruda)氏は語る。「これは政府にとって非常に役立つ可能性のある重要なプロセスだ。ソーシャルメディアを通じ、外国の人々と対話をすることが目標である」
人間関係や政府との関わり方がウェブの存在により変化したこの世の中で、外交目標を達成するためのデジタルツールの利用はますます増えている。米国はこれを「21世紀の国政術(21st century statecraft)」と呼ぶ。
この潮流の最前線にいるのは米国政府だ。そしてこれを主導するのは、2008年の大統領選民主党候補者選びでハイテクに詳しいバラク・オバマ(Barack Obama)氏に敗北し、ソーシャルメディアの力を痛感したヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官である。
現在、ツイッター(Twitter)には大使館や大使のアカウントも含め、政府関連のアカウントが300ほどあり、また米SNSフェイスブック(Facebook)には400ページ、さらに動画サイトのユーチューブ(YouTube)には180チャンネルほどが存在する。
一例を挙げると、駐シリア米国大使のロバート・フォード(Robert Ford)氏は、大使館のフェイスブックページで民間人居住地域を移動する軍部隊を撮影した衛星画像を公開し、シリア政府とプロパガンダ合戦を繰り広げている。
また米国務省も、イランの人びとと制裁措置や米国留学などの問題について交流する場を、米グーグル(Google)のSNS「Google+」が提供するグループ動画チャットサービス「ハングアウツ(Hangouts)」に設置した。
「これらの技術を使う利点の一つは、われわれが実際に外交的プレゼンスのない場所に対してだ」と、米国務省のデジタル戦略担当副次官補のビクトリア・エッサー(Victoria Esser)氏は語る。
■「外の世界との交流は不可欠」
米国以外の国々でも、政治的影響力を高めたり、外国の投資家や観光客を誘致しようとの目的でこの動きに乗り出していることが見受けられる。
たとえば、現代アラブ女性の象徴とみなされているヨルダンのラニア王妃(Queen Rania)は、ヨルダンのソフトパワー推進において鍵となる財産だが、ツイッター上ではさらに力強く、世界中から230万人にフォローされている。
「ラニア王妃は中東情勢や政治問題に関心の高い層にフォローされているだけではない。彼女がショップで何を買ったのか、国外でどこを訪れるのかといったことに興味のある人びとにも、フォローされている」と、アントニオ・デルーダ氏は説明する。
「外交問題を追うような、従来と同種の人びとのみならず、より幅広い聴衆を獲得できること。これがデジタル外交の肝だ」
だが一方でその即時性とアクセス性ゆえに場違いなコメントをした際には、一瞬にして激論を巻き起こす「地雷原」となるのがソーシャルメディアだ。
駐カナダのパレスチナ代表を務めていたLinda Sobeh Ali氏は、パレスチナの少女が詩を朗読する動画をリツイートしたために、2011年10月に解任された。詩は清らかに始まったものの、後半部分では「シオニズムを破壊する」といった内容に変化していったとされる。
またソーシャルネットワークは、公人同士の口論の場にもなる。
5月、駐ロシア米国大使のマイケル・マクフォール(Michael McFaul)氏による米露関係のスピーチに対し、ロシア政府がマクフォール氏をツイッターで激しく非難した。ネットユーザーたちは、ロシア外務省が連続9件のツイートでマクフォール大使をこき下ろしているのを面白おかしく楽しんだ。
ソーシャルメディアに詳しいイタリア外務省は、ソーシャルネットワークにはリスクが伴うことを理解している。ジュゼッペ・マンゾ(Giuseppe Manzo)外務省報道官は「ソーシャルメディアによって我々の声が届く範囲ははるかに大きくなるが、同時にリスクも大きくなる。今はまだ適応の最中だ。これまで通りの外交も不可欠だと信じている」と語った。
一方、アントニオ・デルーダ氏は、ソーシャルネットワークを通じた交流と共に政府が行動を起こすことも同じく重要だと指摘する。「相手と会話になって、私が政策や国のイメージ、指導者などについて考えを伝えるとしよう。それで相手が何も変えなかったとすれば、その対話は終わることになるだろう。これがデジタル外交の将来にとって非常に重要なポイントだ」と語った。(c)AFP/Marianne Barriaux