【9月17日 AFP】デジタル時代の到来で欧米の新聞業界が苦境に追い込まれるのをよそに、日本の新聞は定期購読を中心とする巨大な発行部数に支えられ長年、24時間体制で報道を続けてきた。しかし、その日本の新聞界もついに危機に直面している。

 欧米のような大手新聞社の経営難や破たんは今のところまだ起きていないが、日本の新聞産業の基盤自体は間違いなく衰退していると、日本大学の大井眞二(Shinji Oi)教授は指摘する。

 1999~2009年の10年間、世界の新聞界が苦渋する一方で日本の新聞の発行部数はわずか6%しか減っていない。最大手、読売新聞は世界最大1000万部を超える発行部数を誇る。日本新聞協会(Japan Newspaper Publishers & Editors Association)によると、09年の新聞全体の日刊販売部数は5040万部。日本人の「新聞好き」は変わっていないように見える。

 しかし、インターネットとともに育った若い世代の新聞離れは進んでいる。M1・F1総研(M1F1 Research Institute)の調査によると、20代の若者は新聞について、料金が高く、余計な情報が多くて読むのに時間がかかり、情報を手に入れるのは他の無料メディアで間に合うとみなしている。別の調査では、40歳以下の人の大半が、平均して月額4000円の購読料は高いと感じている。

■日本ならではの弱み

 一方、立教大学社会学部メディア社会学科の服部孝章(Takaaki Hattori)教授によると、センセーショナルな要素を追求するあまり、新聞のクオリティが下がっていると失望している読者もいる。真剣な報道にはコストがかかるものだが、同教授は、日本のメディアは報道の質を犠牲にして、編集経費を削減してきたと指摘する。そうした中、何社かが直面している危機は、業界が自己満足に陥らずに再編の道を見出す良いきっかけとなるかもしれないと言う。

 米国では経済危機とともに広告収入が激減し、多くの新聞が姿を消し、大手の破産申請も相次いでいる。一方でタイムズ(Times)社は7月、オンライン版への広告出稿がふた桁成長となり、印刷版の広告収入の落ち込みをカバーしていると発表した。

 他方、日本の新聞は、いまだ本格的なオンライン版を確立できていない。縮小する広告収入を有料ニュースでまかないたいところだが、読者の抵抗感は根強い。世界中に英語の読者が存在する欧米のメディアと違い、市場も国内に限られる。

■求められるのは質の高い情報と「多様性」

 iPhoneiPadといった携帯端末機器で読める無料ニュースで、ニュースを読む層自体は広がった。こうした携帯端末については多くのメディアが様子見をする中、日本経済新聞や産経新聞が先陣を切っている。

 3月にオンライン版の本格展開を開始した日経のサイトには、無料と有料の記事が混在する。立ち上げから7月までに、7万人の購読者を含む約44万人の登録読者を獲得したが、印刷版の発行部数300万には遠く及ばない。同紙オンライン版の関係者は、印刷版だけでは難しいだろうが、オンライン版との共存によって新たなビジネスモデルを創造できると言う。オンライン版かどうかにかかわらず、読者は質の高い情報には購読料を払うと見込んでいる。

 日大の大井教授は、主要各紙が経営の安定性を向上させるためには、読者層を大多数ではなく、特定の層に絞るべきだと語る。読者の行動傾向が変化する中、日本のメディアも多様化しなければならないと言う。(c)AFP/Hiroshi Hiyama