【1月16日 AFP】米アップル(Apple)の共同創立者スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)最高経営責任者(CEO)は、まさに「生きた伝説」と呼ぶべき人物だ。米IT産業の中心地カリフォルニア(California)州シリコンバレー(Silicon Valley)から世界にアップル、携帯音楽プレーヤー「iPod」、携帯電話端末「iPhone」と、3種類もの象徴的製品を送り出した。

 そのジョブズ氏が15日、以前から取りざたされている健康問題が「考えていたよりも複雑なため」、治療のために6月まで休職すると発表した。ガンを克服した経歴もあるジョブス氏が、CEO職にはとどまるとしながらも、ホルモンバランスを崩して治療中だと明らかにしたのは1週間前だった。

 2004年にはすい臓癌で治療を受け、その後公の場に登場したときに極度にやせていたことから健康問題に関して新たな憶測が広がった。

■伝説のガレージクラブから独創的なカリスマに

 ジョブス氏は1955年2月24日、米カリフォルニア州サンフランシスコ(San Francisco)で生まれた。生みの母親はシングルマザーで、生後1週間で同州マウンテンビュー(Mountain View)の夫妻の養子となった。ジョブス氏が育った地帯には果樹園が広がっていたが、ここが後に国際的なIT産業のメッカ、シリコンバレーとなる。

 高校生のとき、ジョブス氏は近隣の街パロアルト(Palo Alto)で米コンピューター大手ヒューレット・パッカード(Hewlett PackardHP)が開催した講習会を受け、その後同社の夏季インターンシップに参加し、エンジニアのスティーブ・ウォズニアック(Steve Wozniak)氏と出会う。

 ジョブス氏はリード大学(Reed College)をわずか1期で中退するが、大学の講義は受講し続けた。この期間にカリグラフィー(装飾文字)の講義を取ったことが、アップルのマッキントッシュ(Macintosh)コンピューターを多様な活字書体に対応させたきっかけだと、ジョブス氏は述べている。

 20歳で精神世界を探求するためインドへ旅行。帰国後、ビデオゲーム会社の先駆者アタリ(Atari)で職を得た。一方で、家族の家の片隅にあるガレージでウォズニアック氏らと共に、同じようなドロップアウトの境遇にある少年が集まる「ホームブリュー・コンピューター・クラブ(Homebrew Computer Club)」というガレージクラブを開いた。このガレージでアップルコンピュータ(Apple Computer)が設立されたのは、76年のこと。当時、HPの社員だったウォズニアック氏は26歳、ジョブス氏は21歳だった。

 それから最初のアップルコンピュータ、そしてマッキントッシュが世に出され、80年代に大人気を集めた。ユーザーの使い勝手を飛躍的に向上した「コンピューター・マウス」もジョブス氏とアップルの発明品だ。

 パソコン用基本ソフト(OS)業界をウィンドウズ(Windows)一色にし、IT業界に強力な帝国を築いたマイクロソフト(Microsoft)に対抗する同盟の一種だと自分たちをみなすマッキントッシュ信奉者らは、ジョブス氏を偶像的に崇拝さえした。

■アップルとの「離縁」、自らの指揮による復興の時代

 1985年、ジョブス氏は社内の権力抗争をきっかけにアップルを離れ、ビジネス用ワークステーションに特化したNeXTコンピュータ(NeXT Computer)を立ち上げた。またカリフォルニア州で、映画監督ジョージ・ルーカス(George Lucas)氏の映画制作会社ルーカスフィルム(Lucasfilm)のCG部門から発展した有名プロダクション、ピクサー・アニメーション・スタジオ(Pixar)も共同設立した。一方でジョブス氏の去ったアップルは、周囲がドットコム・ブームにわく中、輝きを失っていた。

 アップルとジョブス氏が和解し、歩み寄ったのは96年。アップルが4億2900万ドルでNeXTを買収し、ジョブス氏は再びアップルのトップに舞い戻った。ジョブス氏の支配的なリーダーシップを批判する声もあったが、「iPod」「iPhone」で見事アップルの復権を果たした。

 さらにジョブス氏の指揮の下、ウィンドウズ使用プログラムに対するマッキントッシュの互換性を著しく高め、マイクロソフト製品に長く独占されていたソフト市場でシェアを挽回した。

 またピクサーは2006年、ウォルト・ディズニー・カンパニー(Walt Disney Company)が74億ドル(約6600億円)で買収した。これによりジョブス氏はこの巨大エンターテインメント企業最大の単一株主となった。

 ジョブス氏は黒いタートルネック・シャツにブルージーンズ、ランニング・シューズの組み合わせがトレードマーク。ビートルズ(Beatles)やボブ・ディラン(Bob Dylan)など好きなミュージシャンの台詞を引用してコメントすることが多い。(c)AFP/Glenn Chapman