【9月8日 AFP】最近の中国人は、友人や親類が海外旅行に行くとなると、中国で手に入らないエレクトロニクス製品を買ってくるよう頼んでいる。

 まるで一世代昔に戻ったかのような光景だ。彼らが欲してやまない製品は実は中国製で、その製品が中国で入手できない責任を負うべき企業は自由な発想をセールスポイントにしているというのは実に皮肉だ。

 調査会社In-Stat Chinaの家庭用電化製品部門のJames Lei主任は、「iPhoneは、計画経済時代を復活させた」と話す。

 アナリストらは、発売から1年以上が経過した今も、iPhoneが、6億人が携帯電話を使っている世界最大の携帯電話市場の中国で発売される可能性は、西アフリカで発売される可能性よりもはるかに低いと見ている。

 中国メディアは2日、中国最大の携帯電話事業者、中国移動通信集団(チャイナモバイル、China Mobile)が、iPhoneの販売についてアップルと交渉の最終段階にあると伝えた。しかし、いずれの当事者もこの報道を認めていない。

 アップルのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)最高経営責任者(CEO)は6月、年内に中国で合意に達するよう期待しているものの、「規制当局」という障壁を乗り越えなければならないと語っていた。

■みずから行動する中国の消費者

 一方、中国消費者は、アップルの市場参入をただ待っているだけではない。中国は、iPhoneの密輸品や偽造品、「ロック解除済み」製品が世界で最も多い。

 In-Statの推計によると、第1世代のiPhoneのうち、50万台以上が中国に入った。これは2007年6月から2008年3月までの間に世界で出荷されたiPhone520万台の約1割にあたる。

 また、テレコム・コンサルタントのBDAの推計によると、「ロック解除済み」iPhoneのうち4割が、中国に輸入されているという。

 4月に、海外出張した友人にiPhoneを買ってきてもらった男性(26)は、インターネットで見つけた簡単な手順に従うだけで、iPhoneを中国の既存の携帯ネットワークで使用できるようになると話す。「とても簡単。中国でiPhoneがいつ発売されることになろうが関係ない」

 この男性は米国で399ドル(約4万3000円)で販売されている8ギガバイトのiPhoneのために3000元(約4万7000円)を支払った。

 中国のオークションサイト淘宝網(Taobao.com)では、アップルの携帯電話端末「iPhone」の最新モデル「iPhone 3G」が米国の小売価格199ドル(約2万1000円)の3.5倍の4900元(約7万7000円)で販売されている。

■中国目指すアップルの課題

 アップルが中国でiPhone販売を開始したとしても、中国の消費者にとって闇市場の方が魅力的であり続ける可能性もある。

 BDAによると、中国情報産業省は、アップルに対し、中国で販売するすべての端末の無線通信機能を無効化するように要請したという。

 また、第3世代携帯電話方式(3G)の構築にあたって、チャイナ・モバイルが、中国独自の仕様であるTD-SCDMA規格を採用したため、WCDMA規格を採用する最新型のiPhoneと互換性がないという点も議論を巻き起こしている。

 さらに模造品と戦う必要もある。たとえば広東(Guangdong)省に本拠を置く魅族科技(Meizu Technology)は、ドイツのハノーバー(Hanover)で開催された情報技術見本市「CeBIT」に、iPhoneによく似た200ドル(約2万2000円)の携帯端末「M8 MiniOne」を出展した(この製品は後で没収された)。

 アナリストらは、アップルの公式な中国市場へのiPhone投入を行き詰まらせているのは、需要がないということではなく、アップルが、チャイナ・モバイルら中国の携帯電話事業者と交渉するために米国中心の戦略をどこまで変えることができるのかという問題だと指摘する。

 しかしその間も、中国の消費者がおとなしく待つことはない。(c)AFP/Joan Feng