漂流震災がれきは今どこに、影響は数十年続くと専門家
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【3月8日 AFP】2011年3月11日の東日本大震災では、巨大津波にのみ込まれた家屋や車、家財道具などが、過去に類を見ない膨大な量のがれきとなって海に流出した。その量はおよそ500万トンに上るとされる。
日本政府の公式推計では、このうち約350万トンは津波発生直後に一気に海底に沈んだとみられている。残る約150万トンは、広大な太平洋へと漂流していった。プラスチック材や木材、漁網、輸送用コンテナ、産業廃棄物などが無数の漂流物と化した。
海洋学者たちは、こうした震災漂流物が太平洋の汚染状況を著しく悪化させるのではないかと懸念し、注視している。漂流するがれきは船舶の航行や海洋生物たちを危険にさらし、外来種を媒介する恐れがある。また、漂流物に含まれているプラスチック微粒子については、野生の生物環境にどのような危険をもたらすのか、まだほとんど解明されていない。
■日本の1年間のゴミの3200倍、がれきが物語る震災の悲惨さ
海洋ごみに関する研究調査を行っている仏環境団体「ロバン・デ・ボワ(Robin des Bois、ロビン・フッド)」は、次のように指摘する。「東日本大震災の大津波は、たった一撃で、日本全国で1年間に出る廃棄物の3200倍ものがれきを太平洋に押し流した。プラスチックだけでも、大西洋と太平洋で回収されるプラスチックごみの年間合計量の数十年分に匹敵する」
昨年初めには、流出した震災漂流物のうち発泡スチロールや浮標(ブイ)といった海面に浮き、風によって流されやすいものが米オレゴン(Oregon)州やワシントン(Washington)州、アラスカ(Alaska)州、カナダのブリティッシュコロンビア(British Columbia)州の沿岸に漂着し始めた。
続いて、コンテナに入ったハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)のオートバイや、持ち主の名前が書かれたサッカーボール、乗組員のいない船、2つの浮桟橋など、震災の悲惨さを痛烈に物語る漂着物が、太平洋をはるばる越えて流れ着くようになった。
漂着した2つの浮桟橋はいずれも青森県の三沢港から流されたものだが、オレゴン州とワシントン州に打ち上げられた時期には8か月の隔たりがあった。一方の桟橋には海藻やフジツボなど数十種の外来種が付着しており、地元の生態系に影響を及ぼさないよう洗浄された。
■漂流ルートの謎、大量のがれきはどこへ?
これらの浮桟橋が漂流してきたルートが解明できれば、当初予想されていたほど大量の震災がれきが漂着していない理由に説明がつくかもしれない。
米国海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA)のデータによれば、海上を巨大な塊になって移動しているがれきはもはや存在しないようだ。NOAAで海洋ごみ対策に携わるシェリー・リピアット(Sherry Lippiatt)氏は「この2年間で、がれきは広大な北太平洋に拡散した」と述べる。
実際、震災漂流物の大半の行方は不明だ。水を含んで海に沈んだり、バラバラになって上空から確認できなくなった可能性もある。海上を行き交う船舶や漁船の乗組員の目撃証言や、コンピューター上のシミュレーションでは、ひと塊のがれきが米ハワイ(Hawaii)北方と東方をゆっくり移動していることが示唆されている。
■到達地点は「太平洋ゴミベルト」か
英国立海洋学センター(National Oceanography Centre)のサイモン・ボクソール(Simon Boxall)氏は、北太平洋をゆっくりと巡る環流の存在を指摘する。「環流は太平洋を北米に向かって流れ、カリフォルニア(California)州の沿岸を南下したあと円を描くように向きを変え、約6~7年かけて日本の沿岸に戻る」
ボクソール氏によると、震災がれきの大半はこの還流に乗って移動し、最終的にハワイとカリフォルニア州の中間にある海洋ごみの集積海域、いわゆる「太平洋ゴミベルト(Pacific Garbage Patch)」にたどり着くという。「中には30~40年にわたってそこにとどまるがれきもあるだろう」
北米の海岸に流れ着く震災漂流物は、還流の北側から分離したものだと考えられるという。北米では今後数年間にわたって、数々の震災がれきが漂着することになりそうだ。
■海洋環境への影響は
ボクソール氏は、福島第1原発事故による放射能汚染物質は例外としつつも「震災漂流物の大半は、ほぼ無害だ」と明言した。「油は外洋で分解され、化学物質は消失しているはず。ただ、大きな物体が船舶の航行に危険を及ぼす可能性はある」
そのうえでボクソール氏は、微小粒子にまで分解されたプラスチックについては、大きな疑問が残されているとも付け加えた。
これまでの研究で、北海のムラサキイガイ(ムール貝)や魚類が飲み込んだプラスチック微粒子が、消化されずに体内に残り続けることが指摘されている。
フランス国立海洋開発研究所(IFREMER)のフランソワ・ガルガニ(Francois Galgani)氏は、こうした微小粒子がもたらす危険については「まるで何も解明されていない」と指摘。また、海底に沈んだ漂流物や、それらに付着した外来種の影響にも懸念を表明し、「深海の海流に関しては、まだ分からない点が多い。個人的には、深海に海洋ごみの吹き溜まりのような場所があるはずだと考えている」と語った。(c)AFP/Richard INGHAM
日本政府の公式推計では、このうち約350万トンは津波発生直後に一気に海底に沈んだとみられている。残る約150万トンは、広大な太平洋へと漂流していった。プラスチック材や木材、漁網、輸送用コンテナ、産業廃棄物などが無数の漂流物と化した。
海洋学者たちは、こうした震災漂流物が太平洋の汚染状況を著しく悪化させるのではないかと懸念し、注視している。漂流するがれきは船舶の航行や海洋生物たちを危険にさらし、外来種を媒介する恐れがある。また、漂流物に含まれているプラスチック微粒子については、野生の生物環境にどのような危険をもたらすのか、まだほとんど解明されていない。
■日本の1年間のゴミの3200倍、がれきが物語る震災の悲惨さ
海洋ごみに関する研究調査を行っている仏環境団体「ロバン・デ・ボワ(Robin des Bois、ロビン・フッド)」は、次のように指摘する。「東日本大震災の大津波は、たった一撃で、日本全国で1年間に出る廃棄物の3200倍ものがれきを太平洋に押し流した。プラスチックだけでも、大西洋と太平洋で回収されるプラスチックごみの年間合計量の数十年分に匹敵する」
昨年初めには、流出した震災漂流物のうち発泡スチロールや浮標(ブイ)といった海面に浮き、風によって流されやすいものが米オレゴン(Oregon)州やワシントン(Washington)州、アラスカ(Alaska)州、カナダのブリティッシュコロンビア(British Columbia)州の沿岸に漂着し始めた。
続いて、コンテナに入ったハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)のオートバイや、持ち主の名前が書かれたサッカーボール、乗組員のいない船、2つの浮桟橋など、震災の悲惨さを痛烈に物語る漂着物が、太平洋をはるばる越えて流れ着くようになった。
漂着した2つの浮桟橋はいずれも青森県の三沢港から流されたものだが、オレゴン州とワシントン州に打ち上げられた時期には8か月の隔たりがあった。一方の桟橋には海藻やフジツボなど数十種の外来種が付着しており、地元の生態系に影響を及ぼさないよう洗浄された。
■漂流ルートの謎、大量のがれきはどこへ?
これらの浮桟橋が漂流してきたルートが解明できれば、当初予想されていたほど大量の震災がれきが漂着していない理由に説明がつくかもしれない。
米国海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA)のデータによれば、海上を巨大な塊になって移動しているがれきはもはや存在しないようだ。NOAAで海洋ごみ対策に携わるシェリー・リピアット(Sherry Lippiatt)氏は「この2年間で、がれきは広大な北太平洋に拡散した」と述べる。
実際、震災漂流物の大半の行方は不明だ。水を含んで海に沈んだり、バラバラになって上空から確認できなくなった可能性もある。海上を行き交う船舶や漁船の乗組員の目撃証言や、コンピューター上のシミュレーションでは、ひと塊のがれきが米ハワイ(Hawaii)北方と東方をゆっくり移動していることが示唆されている。
■到達地点は「太平洋ゴミベルト」か
英国立海洋学センター(National Oceanography Centre)のサイモン・ボクソール(Simon Boxall)氏は、北太平洋をゆっくりと巡る環流の存在を指摘する。「環流は太平洋を北米に向かって流れ、カリフォルニア(California)州の沿岸を南下したあと円を描くように向きを変え、約6~7年かけて日本の沿岸に戻る」
ボクソール氏によると、震災がれきの大半はこの還流に乗って移動し、最終的にハワイとカリフォルニア州の中間にある海洋ごみの集積海域、いわゆる「太平洋ゴミベルト(Pacific Garbage Patch)」にたどり着くという。「中には30~40年にわたってそこにとどまるがれきもあるだろう」
北米の海岸に流れ着く震災漂流物は、還流の北側から分離したものだと考えられるという。北米では今後数年間にわたって、数々の震災がれきが漂着することになりそうだ。
■海洋環境への影響は
ボクソール氏は、福島第1原発事故による放射能汚染物質は例外としつつも「震災漂流物の大半は、ほぼ無害だ」と明言した。「油は外洋で分解され、化学物質は消失しているはず。ただ、大きな物体が船舶の航行に危険を及ぼす可能性はある」
そのうえでボクソール氏は、微小粒子にまで分解されたプラスチックについては、大きな疑問が残されているとも付け加えた。
これまでの研究で、北海のムラサキイガイ(ムール貝)や魚類が飲み込んだプラスチック微粒子が、消化されずに体内に残り続けることが指摘されている。
フランス国立海洋開発研究所(IFREMER)のフランソワ・ガルガニ(Francois Galgani)氏は、こうした微小粒子がもたらす危険については「まるで何も解明されていない」と指摘。また、海底に沈んだ漂流物や、それらに付着した外来種の影響にも懸念を表明し、「深海の海流に関しては、まだ分からない点が多い。個人的には、深海に海洋ごみの吹き溜まりのような場所があるはずだと考えている」と語った。(c)AFP/Richard INGHAM