【1月18日 AFP】クラサワマユミさんが勤める海藻関連の会社は、2011年の東日本大震災の津波で7つの加工場を流された。約2年がすぎた今も、放射能汚染に対する消費者の恐怖が売り上げを侵食している。

 販促活動のために最近東京を訪れたクラサワさんはAFPの取材に対し、自分の会社は毎日海藻を検査していて安全性は保証できると語った。しかし売り上げは東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故の前と比べて3分の1に落ち込んでいるという。東北地方の多くの農家と同様、食品の安全性にいまだ確信を持てない消費者に食料品を売ることに悪戦苦闘している。

 事故が起きた福島第1原発は放射性物質をまき散らし、十数万人に避難を強いた。クラサワさんの会社の生産拠点は岩手県にあり原発から300キロ離れているにもかかわらず、ワカメの売り上げは厳しい。クラサワさんによると、多くの取引先がクラサワさんの会社の製品より安全だと考えて韓国や中国の製品を選んでいるという。

■崩れた信頼、尾を引く東北産品に対する不安

 以前は品質に定評があった東北の食材。しかし福島原発の事故の結果、今ではワサビからキノコ類、果物、穀物、サーモン、日本酒に至るまで日本の多くの消費者から疑いのまなざしを向けられている。

 平均すると東北産品の売り上げは事故前の6割から7割に落ち込んでいる。震災直後に国際緊急措置に沿って引き上げられた日本の食品の放射性セシウムの基準値は昨年4月に「通常」に戻された。これで消費者を安心させられるはずだったが、牛肉、牛乳、キノコ類、野菜、米から基準を超える放射性セシウムが検出されたことで、福島県産品に着せられた汚名は今も残っている。

 特定の食品は安全だという信頼も、福島県産の食材を別の地方のものと偽って売ろうとした卸売業者などの例によって傷付けられた。政府の食品スクリーニング測定に対する疑念と相まって、農家はいっそう追い込まれた。

 さらに消費者や専門家からは、政府が経済への悪影響や損害賠償の複雑化を懸念して、潜在的な健康リスクについて控えめに発表しているのではないかとの疑念も挙がっている。

 国が定めた食品1キロ当たり100ベクレルという放射性セシウムの基準値に疑いを抱く食品販売業者は自分たちの手で検査を始めている。スーパー国内最大手のイオン(Aeon)では、「放射性物質ゼロ方針」を掲げている。イオン広報によると、商品から検出限界を超える放射性セシウムが検出された場合、生産された地域からのその産品の仕入れを停止する。イオンはこれによって消費者に心配せずに買い物をしてもらえるとしている。

 福島第1原発周辺の産品の大半は現在では基準値をかなり下回っており、東北地方の他の県で育てられた青果や家畜のほとんどは検査を合格している。岩手県奥州市のフランス料理店「ロレオール」の伊藤勝康(Katsuyasu Ito)シェフは、使っている食材は全て検査で安全であることが確認されているが、東北産品に対する不安は今も消費者の間に残っていると語る。

■輸出、経済、暮らしに降りかかる放射能汚染

 輸出も打撃を受けている。農林水産省の統計によると、2011年の農林水産物輸出額は前年比8.3%減の4511億円だった。原発事故を受けて、日本からの食品の輸入を45 か国・地域が規制したために輸出が減少した。しかし現在は韓国を除いて全般的に緩和されつつあるという。

 福島第1原発から40キロの相馬市で生産されるコメの多くは基準を満たしているが、地元の人たちしか買おうとしない。

 養鶏農家のサイトウマサヒロさんは売上高が20%も落ち込んだが、農業自体をやめざるを得なくなった人もいた近隣の穀物農家や野菜農家ほど不運ではなかったと感じている。

 放射線レベルがピークだった2011年3月、サイトウさんが生産する鶏肉から検出された放射性セシウムは政府が定めた基準値を大きく下回る1キロ当たり5ベクレルだった。多くの同業者と同様、サイトウさんもニワトリの飼料として米国産トウモロコシを使ってきた。同じ地域でも養鶏農家のほうが他の農家より打撃が少なかったのはこのためだとサイトウさんは説明する。

 しかし原発事故は発生から2年近くたった今も、地域の農業だけではなく経済全体、そして多くの人たちの日々の暮らしに影響を与えている。福島周辺の除染作業には何十年もかかると見込まれており、中には放棄を余儀なくされる土地もあるだろうと専門家は警告している。

 苦悩は強まり、日本の報道には生活手段を失ってしまった人たちの話があふれている。内閣府によれば、昨年11月までに震災との関連で76人が自らの命を絶った。そのうち金銭的困難や生活問題を抱えていた人は21人、仕事関連の問題を抱えていた人は9人いたという。(c)AFP/Patrice Novotny