【10月22日 AFP】カナダ太平洋岸の先住民の村が、海に鉄粉を散布して植物プランクトンを増やす「海洋肥沃化(ocean fertilization)」を実施し、物議を醸している。

 オールドマセット(Old Massett)村は8月、米国人実業家のラス・ジョージ(Russ George)氏との共同プロジェクトで、カナダ太平洋岸にある群島ハイダ・グワイ(Haida Gwaii、旧名:クイーンシャーロット諸島)の西岸沖に漁船で硫酸鉄120トンを散布した。

 環境活動家や先住民団体、科学者らはこのプロジェクトが海洋肥沃化を禁じた国際法に違反していると批判。前週までインド・ハイデラバード(Hyderabad)で開催された国連(UN)の「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)第11回締約国会議(COP11)」でも、この問題は議題に取り上げられた。

■カナダ当局が黙認?

 しかしオールドマセット村は19日、プロジェクトの存在はカナダ政府当局も知っていたのに中止要請はなかったと反論。国際法をはじめ法律に違反した行為は一切行っていないと主張した。

 海洋肥沃化プロジェクト実行団体の1人であるオールドマセット村のジョン・ディズニー(John Disney)氏は記者会見で、「政府はわれわれのしていることを正確に把握していた」「作業は公海で行われており、合法だ」などと発言。同プロジェクトは国際法や科学的手順を順守していると主張したほか、カナダ連邦当局の少なくとも7機関が散布計画の存在を知っていたと述べた。

 一方のカナダ政府は、プロジェクトへの関与を否定している。ピーター・ケント(Peter Kent)環境相は18日、報道官を通じて同問題の調査を8月30日に開始したことを明らかにした。

■2つの目的

 同村によると、プロジェクトの目的は2つある。1つは鉄粉の散布によって、海洋生態系が活性化し地域の文化・経済の柱であるサケの生息数が増加するかどうかを確認することだ。もう1つは、鉄粉により海中の植物プランクトンを増やし、これに二酸化炭素(CO2)を吸収させることで将来的にCO2排出取引を通じて利益を得ることが可能かを確かめることだという。

 プロジェクトの資料によれば、8月の散布以降、該当海域の生物活動が活発になっていることが衛星写真で確認できたという。

■大半の科学者は否定的

 ただ、ブリティッシュ・コロンビア大学(University of British Columbia)の海洋学者、エフゲニー・パホモフ(Evgeny Pakhomov)氏はAFPの取材に対し、海洋に鉄を散布する手法はもはや古い発想だと指摘した。

 同氏によると、これまでも小規模な肥沃化実験が行われてきたが、海洋の酸性化など予期せぬ結果を招くなど仕組みがまだよく分かっていないことから、大半の科学者はこの手法に否定的だという。(c)AFP/Deborah Jones