【9月11日 AFP】朝鮮戦争(1950~53年)後も国際法的に戦争状態にある北朝鮮と韓国、そして二つの国を南北に隔てる朝鮮半島の軍事境界線――この境界線沿いに設けられた非武装地帯(DMZ)が、はからずも世界で有数の生物多様性の宝庫となっている。

 DMZは世界で最も厳重な軍事警戒態勢がしかれる地域の一つだ。この人為的な「隔離」によって、幅4キロ、長さ248キロに及ぶこの地域は約60年もの間、結果的にほぼ無人状態に保たれてきた。

 山地や平原、湖沼、湿地帯を横断するDMZは、驚くほど多くの植物や生物の「守られた故郷」となっており、タンチョウヅルやアムールヒョウなど82の絶滅危惧種も確認されている。

 だが現在、韓国南部の済州島(Jeju Island)で開催中の世界自然保護会議(World Conservation Congress)では、DMZ付近で進む再開発によって「野生の楽園」が脅かされているとの指摘が専門家からあがっている。特にDMZの南北それぞれに隣接する北朝鮮、韓国の「民間人統制区域」の環境に脅威が差し迫っているという。

 肥沃(ひよく)な農地だったこの統制区域は朝鮮戦争後、放置されたまま60年近くが経過した。かつての農地は、森林や自然湿地帯に立ち戻り、野生の生物たちの生息地となった。

 しかし、韓国・京畿開発研究院(Gyeonggi Research Institute)の環境専門家パク・ウンジン(Park Eun-Jin)氏は、こうした地域が再び農地に転換されつつあると指摘。農産物や高麗人参が栽培され、動植物の生態系に影響を与えていると警告した。

■緊張緩和が生み出す皮肉な自然破壊

 南北関係は依然として不安定な状態にあるものの、緊張緩和の努力も進められ、その結果として統制区域での土地使用許可は増える傾向にある。「DMZにおける南北共同開発を求める圧力が、開発と環境保全のバランス維持に対する脅威となっている」とパク氏は危惧する。問題は土地転換だけではない。パク氏によると、新たな運河や道路建設計画も、実施されればDMZに生息する両生類、爬虫(はちゅう)類、鳥類が大きな影響を受けることになる。

 世界自然保護会議の出席者らは、同地域での人々の再定住を抑止し、過去60年をかけて築かれた繊細なバランスの上に成り立っている生態系を保護すべく、韓国と北朝鮮が協調して取り組む必要があると訴えた。

 韓国環境政策管理学会(South Korean Institute for the Environment and Civilization)のチョン・フェソン(Jeong Hoi-Seong)会長は、韓国は北朝鮮に経済的な動機付けを与えて環境保護での協力を取り付けることを考えるべきだと語った。

 皮肉なことに、南北統一に向けて北朝鮮と韓国間に平和が維持されることが、DMZの生態系にとっては最大の脅威となっている。南北統一が実現する前に、DMZが国際的な自然保護地域に認定されなければ、戦争が期せずして生み出した安息の地を平和が破壊することにつながりかねない。

 韓国はDMZをユネスコ(UNESCO)の生物圏保存地域として登録することを目指しているが、これまでのところユネスコ側からは、領土の不確定性を理由に色よい返答を得られていない。

 だが、自然保護会議に出席したユネスコ代表は、すべての当事者の納得があれば、DMZが紛争地帯の象徴から、架け橋の象徴となる長期的な見通しはあり、生物圏保存地域に指定される可能性はあると語っている。(c)AFP/Nam You-Sun