絶滅の危機にひんする「夜のオウム」カカポ、保護の取り組み
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【6月28日 AFP】ニュージーランドの飛べないオウム、カカポ(和名フクロウオウム)。動きがのろく、時に人間と交尾をしようとすることもある人懐こいこの鳥は絶滅の危機にひんしている。
ニュージーランドはカカポの保護に力を注いできた。その結果、1990年に50羽ほどだった個体数は今年には126羽にまで増えた。
■天敵の持ち込みにより激減
「カカポ」とはマオリ(Maori)語で「夜のオウム」という意味。19世紀初頭に欧州から移民がやって来るまで陸上捕食動物がほとんどいなかったニュージーランドでは、かつて最もありふれた鳥の1つだった。
「当時はたくさんのカカポがいて、木を揺らせばリンゴのように落ちてきたという探検家チャールズ・ダグラス(Charles Douglas)の報告もありました」と話すのはニュージーランド自然保護省(Department of Conservation、DoC)のカカポ復活プログラムの責任者、ディアドラ・バーコー・スコット(Deirdre Vercoe Scott)氏。「ダグラスによると、トゥトゥ(ニュージーランドに分布する植物)の茂みを揺らしたらカカポが6羽出てきたこともあったそうです」
バーコー・スコット氏によれば、人間が生息地を破壊し、オコジョやネコ、イヌなどを持ち込んだことがカカポの生息数減少につながった。
主に地上で暮らす夜行性のカカポは、木登りは得意だが身に危険が迫ると凍り付いたように動かなくなってしまうため、捕食動物にとっては格好の餌食だった。雄のカカポは雌への求愛行動として胸にある気嚢(きのう)を使って低い音を出すため、夜の森でも天敵に見つかりやすかった。
カカポ復活プログラムの主任研究員ロン・ムーアハウス(Ron Moorehouse)氏によれば、1990年代はカカポの高齢化が進んで生息数が減り、カカポには「悲惨」な未来が待ち受けていると思えたという。
事態を重くみた当局は、直ちに多額の予算をつけてカカポ保護の取り組みを始めた。
■人間に「恋」するカカポ
カカポと触れ合った人は、この鳥は愛らしく、感情豊かな性格を持っていると言う。保護員の1人は、「すごく機嫌が悪いときもあるんですよ。他の鳥の多くは枝に止まってこちらを見つめるだけですが、カカポにはとても豊かな個性があります」と話す。
カカポの繁殖のスピードは非常に遅く、このことが生息数回復の取り組みを難しくした。90歳まで生きることもあるカカポは、木の実が豊富に実る季節にしか繁殖活動を行わない。
さらに保護員らは別の困難にも直面した。雌のカカポより飼育員の方が好ましい交尾相手だとインプリンティングされた(刷り込まれた)雄のカカポが現れたのだ。保護プログラムの初期には表面にたくさんのくぼみがある奇妙な形をしたゴム製のヘルメットを使って、交尾をしようと人間の頭に止まったカカポの精子を採取するという試みまで行われたが、失敗に終わった。
2009年にBBCのテレビ番組「Last Chance to See」の撮影に訪れた英俳優スティーブン・フライ(Stephen Fry)は、カカポと人間の滑稽なラブシーンを目の当たりにし、「今まで見た中で最高に笑える場面の1つだ」とコメントしている。
撮影された映像には、「シロッコ(Sirocco)」という名の雄のカカポが、気に入った動物学者の頭に登って激しく交尾を試みる様子が写っている。映像はユーチューブ(YouTube)に投稿され、現在までに400万回以上再生されている。(動画URL:http://www.youtube.com/watch?v=9T1vfsHYiKY)
■積極的な保護策で状況が好転
バーコー・スコット氏は、カカポを本島から離れた2つの小島に移したことで、カカポの運命に明るさが見え始めたと言う。これらの島は本島から捕食動物が泳いで渡って来ることができない距離にあり、カカポを連れてくる前に有害生物を全て駆除した。
「全てのカカポを天敵がいない島へ移し、繁殖行動を理解することが最大の突破口になりました」と話すバーコー・スコット氏は、「カカポに干渉することへの恐れ」を乗り越える必要もあったと言う。「あくまで干渉しない方針を取っていたらカカポは絶滅していたでしょう。特に育雛期(いくすうき、ひなを育てる期間)には現場で細やかな管理が必要でした」
保護員らはカメラを設置し、毎晩ひなの体重を量るなどして子育てを観察していた。結果的に人の手で育てられたひなも多かったという。
バーコー・スコット氏は、カカポが野生で生き延びられた可能性は極めて低く、絶滅を防ぐには保護プログラムしかなかったと言う。
■遺伝的多様性の保持が課題
この取り組みが成功を収めたため、保護員らは今年、3番目の保護島となるリトルバリア島(Little Barrier Island)に8羽のカカポを放した。この島のカカポは島に住み着いたネズミが原因でその数を減らし、1999年に全て島外に移されていた。カカポを再導入するに当たって島のネズミは全て駆除された。
ムーアハウス氏によれば、8羽の中には以前この島で暮らしていたものもおり、かつて巣を作っていた場所へすぐに戻っていったという。短期間で新しい環境に慣れて繁殖を始めるのではないかと同氏は期待している。
国際自然保護連合(International Union for the Conservation of Nature、IUCN)は、カカポを絶滅危惧IA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い)に指定しているが、状況は好転しているとムーアハウス氏は話す。
「良い結果が出ていることが、私たちの励みになっています。以前より安心できる状況ですが、126羽しかいない中で遺伝上の問題が起こらないよう気をつけなければいけません。可能な限り遺伝的多様性を保とうと努力しています。私たちにとって困難な状況は続きますが、保護活動は良い方向へ向かっています」(ムーアハウス氏)
(c)AFP/Neil Sands
ニュージーランドはカカポの保護に力を注いできた。その結果、1990年に50羽ほどだった個体数は今年には126羽にまで増えた。
■天敵の持ち込みにより激減
「カカポ」とはマオリ(Maori)語で「夜のオウム」という意味。19世紀初頭に欧州から移民がやって来るまで陸上捕食動物がほとんどいなかったニュージーランドでは、かつて最もありふれた鳥の1つだった。
「当時はたくさんのカカポがいて、木を揺らせばリンゴのように落ちてきたという探検家チャールズ・ダグラス(Charles Douglas)の報告もありました」と話すのはニュージーランド自然保護省(Department of Conservation、DoC)のカカポ復活プログラムの責任者、ディアドラ・バーコー・スコット(Deirdre Vercoe Scott)氏。「ダグラスによると、トゥトゥ(ニュージーランドに分布する植物)の茂みを揺らしたらカカポが6羽出てきたこともあったそうです」
バーコー・スコット氏によれば、人間が生息地を破壊し、オコジョやネコ、イヌなどを持ち込んだことがカカポの生息数減少につながった。
主に地上で暮らす夜行性のカカポは、木登りは得意だが身に危険が迫ると凍り付いたように動かなくなってしまうため、捕食動物にとっては格好の餌食だった。雄のカカポは雌への求愛行動として胸にある気嚢(きのう)を使って低い音を出すため、夜の森でも天敵に見つかりやすかった。
カカポ復活プログラムの主任研究員ロン・ムーアハウス(Ron Moorehouse)氏によれば、1990年代はカカポの高齢化が進んで生息数が減り、カカポには「悲惨」な未来が待ち受けていると思えたという。
事態を重くみた当局は、直ちに多額の予算をつけてカカポ保護の取り組みを始めた。
■人間に「恋」するカカポ
カカポと触れ合った人は、この鳥は愛らしく、感情豊かな性格を持っていると言う。保護員の1人は、「すごく機嫌が悪いときもあるんですよ。他の鳥の多くは枝に止まってこちらを見つめるだけですが、カカポにはとても豊かな個性があります」と話す。
カカポの繁殖のスピードは非常に遅く、このことが生息数回復の取り組みを難しくした。90歳まで生きることもあるカカポは、木の実が豊富に実る季節にしか繁殖活動を行わない。
さらに保護員らは別の困難にも直面した。雌のカカポより飼育員の方が好ましい交尾相手だとインプリンティングされた(刷り込まれた)雄のカカポが現れたのだ。保護プログラムの初期には表面にたくさんのくぼみがある奇妙な形をしたゴム製のヘルメットを使って、交尾をしようと人間の頭に止まったカカポの精子を採取するという試みまで行われたが、失敗に終わった。
2009年にBBCのテレビ番組「Last Chance to See」の撮影に訪れた英俳優スティーブン・フライ(Stephen Fry)は、カカポと人間の滑稽なラブシーンを目の当たりにし、「今まで見た中で最高に笑える場面の1つだ」とコメントしている。
撮影された映像には、「シロッコ(Sirocco)」という名の雄のカカポが、気に入った動物学者の頭に登って激しく交尾を試みる様子が写っている。映像はユーチューブ(YouTube)に投稿され、現在までに400万回以上再生されている。(動画URL:http://www.youtube.com/watch?v=9T1vfsHYiKY)
■積極的な保護策で状況が好転
バーコー・スコット氏は、カカポを本島から離れた2つの小島に移したことで、カカポの運命に明るさが見え始めたと言う。これらの島は本島から捕食動物が泳いで渡って来ることができない距離にあり、カカポを連れてくる前に有害生物を全て駆除した。
「全てのカカポを天敵がいない島へ移し、繁殖行動を理解することが最大の突破口になりました」と話すバーコー・スコット氏は、「カカポに干渉することへの恐れ」を乗り越える必要もあったと言う。「あくまで干渉しない方針を取っていたらカカポは絶滅していたでしょう。特に育雛期(いくすうき、ひなを育てる期間)には現場で細やかな管理が必要でした」
保護員らはカメラを設置し、毎晩ひなの体重を量るなどして子育てを観察していた。結果的に人の手で育てられたひなも多かったという。
バーコー・スコット氏は、カカポが野生で生き延びられた可能性は極めて低く、絶滅を防ぐには保護プログラムしかなかったと言う。
■遺伝的多様性の保持が課題
この取り組みが成功を収めたため、保護員らは今年、3番目の保護島となるリトルバリア島(Little Barrier Island)に8羽のカカポを放した。この島のカカポは島に住み着いたネズミが原因でその数を減らし、1999年に全て島外に移されていた。カカポを再導入するに当たって島のネズミは全て駆除された。
ムーアハウス氏によれば、8羽の中には以前この島で暮らしていたものもおり、かつて巣を作っていた場所へすぐに戻っていったという。短期間で新しい環境に慣れて繁殖を始めるのではないかと同氏は期待している。
国際自然保護連合(International Union for the Conservation of Nature、IUCN)は、カカポを絶滅危惧IA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い)に指定しているが、状況は好転しているとムーアハウス氏は話す。
「良い結果が出ていることが、私たちの励みになっています。以前より安心できる状況ですが、126羽しかいない中で遺伝上の問題が起こらないよう気をつけなければいけません。可能な限り遺伝的多様性を保とうと努力しています。私たちにとって困難な状況は続きますが、保護活動は良い方向へ向かっています」(ムーアハウス氏)
(c)AFP/Neil Sands