ケニア首都近郊の住宅街をさまようライオンたち
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【6月21日 AFP】(写真追加)かつてデンマーク人作家アイザック・ディネーセン(本名カレン・ブリクセンKaren Blixen)はケニアのンゴング(Ngong)丘陵麓に位置するコーヒー農園を舞台にした自伝的作品『アフリカの日々(Out of Africa)』で、農園内をヒョウやライオンといった猛獣がうろついていると書いた。彼女が描いた首都ナイロビ(Nairobi)郊外は今日、すさまじい都市化の波に飲まれ閑静な住宅街となっているが、鋭い牙を持つ猛獣たちは今も、急速な環境の変化に押しやられつつこの地に生きている。
「今のところ犬が襲われただけで、人間が被害に遭った例はない。だが住宅地への(猛獣の)侵入が増えれば、襲われる可能性は高くなるだろう」と、ケニア野生生物庁(Kenya Wildlife Service)のフランシス・ガクヤ(Francis Gakuya)主任獣医師は語る。背後のケージの中では、捕獲された4匹の子ライオンが練り歩きながら低くうなっている。
生後2か月でまだ小型犬ほどの大きさのこの子ライオンたちには、母親がいない。ディネーセンの本名にちなんだナイロビ近郊の高級住宅街、カレン(Karen)地区を徘徊していた母ライオンを、野生生物庁のレンジャー隊は撃ち殺さざるを得なかった。残された子ライオンたちは現在、野生生物庁で飼育されている。
こうした事例は後を絶たない。自然保護活動家たちは、適切に管理された持続可能な開発に切り替えない限り、野生動物と人間との遭遇はますます増えるだろうと警告している。
当局では「ライオンを1頭見かけたら、周りにもっといる可能性がある」と住民に警告している。大型獣の目撃情報があれば餌を置いた檻を設置して捕獲を試みているが、賢いライオンたちは一度も罠にかかったことがない。住民たちは夜、番犬がほえるたびに、裏庭にライオンがいるのではないかと身のすくむ思いをしながら暮らしている。
■「獣道」遮られ迷う動物たち
市郊外にあるナイロビ国立公園(Nairobi National Park)を訪れる人たちは、ビジネス街の高層ビル群を背にキリンが悠々と平原を歩く、といった驚きの光景を目にできる。野生動物たちを眺めてのんびりできるバーさえある。市街地側にはフェンスがあるが、保護区は基本的に開放されており、動物たちは餌を求めて獣道を自由に行き来している。
しかし、人口増加や都市化、集約農業の発展などによって公園の環境は脅威にさらされ、動物たちが移動するルートはどんどん狭められている。東部アフリカ生態学会(Ecological Society for Eastern Africa)の会長を務めるニコラス・オグゲ(Nicholas Oguge)ナイロビ大教授によると、「通り道を見つけられず立ち往生する動物」も現れているという。「有効な土地政策が急務だ。野生動物の通り道を人の手で設置しなければ、ナイロビ国立公園は島のように隔離された巨大な動物園となってしまう」
人口350万人のナイロビ市は貧富の差が激しく、邸宅とスラムが肩を寄せ合っているような状況だ。基本的な行政サービスを行き届かせることだけで手一杯な市当局にとって、野生動物の保護は優先度が低いと自然保護活動家たちは嘆く。
■ナイロビ国立公園はアフリカの縮図
ライオン保護団体「Panthera」の代表ルーク・ハンター(Luke Hunter)氏は、「ナイロビ国立公園は各地で今、起きていることの縮図だ」と指摘する。アフリカ全体でかつてのライオンの生息地の80%以上が失われた。「ライオンたちは保護区の中にいるうちはいいが、ひとたびそこから出れば叩きのめされる」
野生生物庁と自然保護団体は、動物たちの主なルートをマッピングするなど獣道を確保しようとしているが、これは地図上に線を引けば済む問題ではない。国立公園と接するナイロビ南部の土地はどこも既に個人の所有地だからだ。その上、ケニアでは今や土地の価格は高騰し、高度な政治問題と化している。
ハンター氏いわく、ライオンは人間を恐れて避けている。しかし、ナイロビの市街地がさらに拡大すれば人と接触する機会も増えることになる。「ライオンにとって大事な地域が開発されれば、人間とライオン(の生活圏)はもっと混ざり合うようになる。1頭だけの状態のライオンは非常に危険だ。その果てに敗れ去るのは、必然的にライオンとなるだろう」 (c)AFP/Peter Martell
「今のところ犬が襲われただけで、人間が被害に遭った例はない。だが住宅地への(猛獣の)侵入が増えれば、襲われる可能性は高くなるだろう」と、ケニア野生生物庁(Kenya Wildlife Service)のフランシス・ガクヤ(Francis Gakuya)主任獣医師は語る。背後のケージの中では、捕獲された4匹の子ライオンが練り歩きながら低くうなっている。
生後2か月でまだ小型犬ほどの大きさのこの子ライオンたちには、母親がいない。ディネーセンの本名にちなんだナイロビ近郊の高級住宅街、カレン(Karen)地区を徘徊していた母ライオンを、野生生物庁のレンジャー隊は撃ち殺さざるを得なかった。残された子ライオンたちは現在、野生生物庁で飼育されている。
こうした事例は後を絶たない。自然保護活動家たちは、適切に管理された持続可能な開発に切り替えない限り、野生動物と人間との遭遇はますます増えるだろうと警告している。
当局では「ライオンを1頭見かけたら、周りにもっといる可能性がある」と住民に警告している。大型獣の目撃情報があれば餌を置いた檻を設置して捕獲を試みているが、賢いライオンたちは一度も罠にかかったことがない。住民たちは夜、番犬がほえるたびに、裏庭にライオンがいるのではないかと身のすくむ思いをしながら暮らしている。
■「獣道」遮られ迷う動物たち
市郊外にあるナイロビ国立公園(Nairobi National Park)を訪れる人たちは、ビジネス街の高層ビル群を背にキリンが悠々と平原を歩く、といった驚きの光景を目にできる。野生動物たちを眺めてのんびりできるバーさえある。市街地側にはフェンスがあるが、保護区は基本的に開放されており、動物たちは餌を求めて獣道を自由に行き来している。
しかし、人口増加や都市化、集約農業の発展などによって公園の環境は脅威にさらされ、動物たちが移動するルートはどんどん狭められている。東部アフリカ生態学会(Ecological Society for Eastern Africa)の会長を務めるニコラス・オグゲ(Nicholas Oguge)ナイロビ大教授によると、「通り道を見つけられず立ち往生する動物」も現れているという。「有効な土地政策が急務だ。野生動物の通り道を人の手で設置しなければ、ナイロビ国立公園は島のように隔離された巨大な動物園となってしまう」
人口350万人のナイロビ市は貧富の差が激しく、邸宅とスラムが肩を寄せ合っているような状況だ。基本的な行政サービスを行き届かせることだけで手一杯な市当局にとって、野生動物の保護は優先度が低いと自然保護活動家たちは嘆く。
■ナイロビ国立公園はアフリカの縮図
ライオン保護団体「Panthera」の代表ルーク・ハンター(Luke Hunter)氏は、「ナイロビ国立公園は各地で今、起きていることの縮図だ」と指摘する。アフリカ全体でかつてのライオンの生息地の80%以上が失われた。「ライオンたちは保護区の中にいるうちはいいが、ひとたびそこから出れば叩きのめされる」
野生生物庁と自然保護団体は、動物たちの主なルートをマッピングするなど獣道を確保しようとしているが、これは地図上に線を引けば済む問題ではない。国立公園と接するナイロビ南部の土地はどこも既に個人の所有地だからだ。その上、ケニアでは今や土地の価格は高騰し、高度な政治問題と化している。
ハンター氏いわく、ライオンは人間を恐れて避けている。しかし、ナイロビの市街地がさらに拡大すれば人と接触する機会も増えることになる。「ライオンにとって大事な地域が開発されれば、人間とライオン(の生活圏)はもっと混ざり合うようになる。1頭だけの状態のライオンは非常に危険だ。その果てに敗れ去るのは、必然的にライオンとなるだろう」 (c)AFP/Peter Martell