恐怖の種―中国に満ちあふれる有害物質(3)
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【6月9日 AFP】前年8月、中国北東部の工業都市・大連(Dalian)で、付近のパラキシレン製造工場から流出があったとして住民数千人が抗議デモを行った。
米アップル(Apple)も批判の的になっている。中国の調査団体IPE(Institute of Public and Environmental Affairs)は最近の報告書で、中国国内にあるアップルの部品メーカーが有害物質を水と大気に放出しており、労働者と近隣住民の健康を危険にさらしていると非難した。
■「空気じゃなく政治を肺に吸い込んでいる」
ほぼ同じころ東部の海寧(Haining)では、白血病患者が急増したのは付近の太陽光パネル工場のせいだと訴える抗議行動が発生。住民らに市長も加わり、力ずくで当局に工場を一時閉鎖させた。
工業施設近辺の住民のがん発症率が異常に高くなる事例が当たり前になりすぎた中国では、この現象を指す「癌症村」なる新語も生まれている。
皮肉なことに、その「癌症村」の1つを山東(Shandong)省環境当局が最近、「長寿地域」に選定した。その村ではがんが多発しており、農薬のプロフェノホスなどを製造する近くの化学工場群が原因だと指摘する専門家もいるのに、だ。
中国当局は、全国のがん発症率の統計データの全面公開を渋っている。環境活動家らは公開されたデータについても、問題が過小評価されていると批判する。農業で大量の殺虫剤や除草剤にさらされやすい地方部の住民は、金銭的な負担から病院で検査を受けないことが多いからだ。
だがおそらく、現在の中国で最も被害の大きい健康問題は土壌汚染でも水質汚染でもなく、大気汚染だろう。膨らむ国民の怒りを受け、当局は先ごろ新たな大気汚染基準を設定し、直径2.5マイクロメートル未満の微粒子にも初めて基準を設けた
その結果として当局は、中国の大都市の3分の2の大気が新基準において最悪の汚染レベルにあることを認めざるを得なくなった。それでもなお、この新基準は世界保健機関(World Health Organization、WHO)の提唱する開発途上国の汚染レベル上限より3倍も高いのだ。
ニュースを急速に広めるマイクロブログの力を借り、拡大する一方の環境汚染問題をめぐる中国国民の不満は今までにない規模で膨れ上がっている。かつては地域ごとに分断されていた汚染の被害者たちが、ごく近隣の問題だと考えていたものが実は中国全土で繰り返し起きている問題だということに気付き、批判の声を高め、対策を求め始めている。
「われわれは、この環境に何十年も暮らしていたんだ」と、新浪微博のあるユーザーは書いた。「政府がわれわれをだまさないことを祈るだけだ」
別のユーザーはこう投稿した。「ときどき思うんだ。私たちが肺に吸い込んでいるのは空気ではなく、政治なんだと」
(c)AFP/Boris Cambreleng
恐怖の種―中国に満ちあふれる有害物質(1)
恐怖の種―中国に満ちあふれる有害物質(2)
・この記事は、AFPのブログ「Geopolitics」内の特集「Living with Fear(恐怖とともに生きる)」に掲載されたシリーズです。