【5月28日 RenewableEnergyWorld.com】欧州連合(EU)の中で債務危機に揺れるいくつかの国が財政緊縮策を推し進める一方で、ギリシャ総選挙や仏大統領選といった最近の政治の動きを見ると、方向性が転換して徹底的な歳出削減方針から遠のきつつあるようにも見える。少なくともそうした歳出削減は容易に実現しないだろうし、その影響は欧州の大半の地域で再生可能エネルギー発電に及ぶ可能性がある。

 フランスでニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)前大統領が進めた新保守主義的な政策が徹底して拒絶されたことは、EU経済のけん引役であり、EU域内で安定感を保つ数少ない国であるドイツにも新たな局面をもたらす可能性がある。

 ドイツ連邦参議院(上院)は11日、再生可能エネルギー電力の固定価格買い取り制度(フィード・イン・タリフ、Feed-In-TariffFIT)縮小に対する承認を延期することを決めた。この展開は、太陽エネルギー関連の助成金削減を進めたいアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相にとって打撃になったとみられている。

 ドイツは導入済みの太陽光発電(PV)の設備容量では依然、世界のトップであり、2011年の新規導入分も予想を超える750万キロワットだった。しかしPVパネル価格の低下や、包括的な歳出削減の要求の高まりによって、これまでPVの成長を支えてきたFITも予想以上に縮小された。今後、この件は連邦議会と州議会で可決され得る妥協案を見出すために両院協議会に送られる。

■緊縮策先送りの動き相次ぐ

 こうした展開は、政治の先行きが見通せず歳出削減に弾みがつきにくい状況の中で起きている。仏大統領選でサルコジ前大統領が敗北したのとまったく同じように、ドイツでもサルコジ氏の盟友、メルケル首相率いる中道右派の与党・キリスト教民主同盟(CDU)が社会民主党(SPD)に政権を明け渡す可能性があることを今回の連邦参議院の決定は示した。

 一方イタリアでも、早ければ7月にも施行される新エネルギー法の一環として予定されていたPVエネルギー助成金の削減が先送りされそうだ。ドイツ銀行(Deutsche Bank)エクイティリサーチ部門のアナリスト、ビシャール・シャー(Vishal Shah)氏は、この助成金削減が秋以降にずれれば、9月末まではPV設備の導入ラッシュが続く可能性があると予測する。そうなった場合、発電容量1000キロワット未満の屋上設置型PVパネル市場の誘引力と下落を続けるパネル価格が後押しし、3か月間で150万~200万キロワット分の新規導入もありうる。

 これはアナリストの間で予測されていた今年1年分の新規導入容量に等しく、今年は市場の冷え込みが予想されていたイタリアのPV業界にとって「熱い夏」になるだろう。イタリアは昨年900万キロワット以上のPV設備を新規導入し、PV発電の市場規模で世界最大になった。欧州太陽光発電産業協会(European Photovoltaic Industry AssociationEPIA)はイタリアについてさらに最大600万キロワット相当の導入を見込んでおり、新法施行前の「駆け込み導入」の動きが出ると予想している。

■ギリシャの「ヘリオス」プロジェクト

 一方ギリシャでは、多くの点でEUにおけるメルケル独首相のリーダーシップの下に作られたといえる緊縮財政策の受け入れの是非をめぐって政界が割れ、政治は著しく混迷して行き詰まり、同国のユーロ圏残留自体が危ぶまれている。ギリシャ議会は最近、景気浮揚策のひとつとして「ヘリオス(Helios)」と名付けた1000万キロワット相当の太陽光発電プロジェクトを発表した。欧州の電力供給の大半をまかなえる容量だが、ギリシャがユーロ圏から離脱する道を選べば、プロジェクトに必要な外国からの投資を得られるとは想像しにくい。(c)RenewableEnergyWorld.com/Steve Leone/AFPBB News

執筆者のスティーブ・レオン(Steve Leone)氏はRenewableEnergyWorld.comのアソシエート・エディター。再生可能エネルギー専門サイトRenewableEnergyWorld.comにこの記事の原文(英語)が掲載されています。