【4月23日 AFP】史上最悪となったメキシコ湾(Gulf of Mexico)での原油流出事故から20日で2年が経過したが、沿岸の漁師や科学者・環境専門家らは一様に、事態は収束からはほど遠いと警告する。

 現在も、沿岸には前例のないほど多数のイルカの死骸が打ち上げられ、海底では油に汚染された珊瑚礁が死んでいく。

 漁をすれば、捕れる魚の数が減っただけでなく、目のないエビや甲羅に穴が開いたカニが網にかかる。食物連鎖の底辺に位置する小魚には、化学薬品汚染の兆候が見られる。

 一方で、海底油田掘削の安全確保や過失回避の対策は、依然としてほとんどなされていないと有識者は指摘する。

■石油分散剤が食物連鎖の中に

 2010年4月20日に起きた英エネルギー大手BPの石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン(Deepwater Horizon)での爆発事故では、作業員11人が犠牲となったほか、米5州の海岸が汚染され、沿岸の観光産業や漁業が壊滅的な打撃を受けた。水深1500メートルの海底で流出し続ける原油の封じ込めに要した87日間に、メキシコ湾に垂れ流された原油の量は490万バレルに上る。

 繊細な生態系を持つルイジアナ(Louisiana)州沿岸の湿地帯の汚染を防ぐため、BPは石油分散剤を海底の原油噴出弁や流出した油に直接、吹きつける措置を取った。これに加えて風向きと潮流、温暖なメキシコ湾の海水に生息する油を吸収するバクテリア、石油掘削施設から海岸までの距離、船舶による原油の回収作業などが功を奏し、湿地帯環境への事故の直接的な影響はある程度回避できた。

 しかし専門家らは、分散剤によって生態系からの油の分離が困難となり、有害な化学液体となって食物連鎖の中に入り込んでいると警告する。

■「好転」強調するBP、今も各地で見つかる油

「メキシコ湾の水面下には、まだ油がある」と、著名な科学者で環境活動家でもあるウィルマ・スブラ(Wilma Subra)氏は言う。

 メキシコ湾沿岸全域で収集した魚介類や堆積物を調査している同氏によれば、原油は今も湿地や河口、浜辺に残っており、地元の人々はその脅威にさらされ続けているという。

 BPはメキシコ湾沿岸の状況は好転しているとの見解を公表しているが、スブラ氏ら多くの科学者は、原油流出の長期的な影響を測るには時期尚早だと主張する。

「現在はまだ分からない新たな影響が、後になって表れる恐れもある。これまでに目にしてきた影響から判断すするだけでも、事態の収束までの道のりはまだ長いといえる」とスブラ氏は述べ、流出事故の影響が数世代に及ぶ可能性もあると付け加えた。

■「BPのせい」、事故の影響に苦しむ漁師たち

「われわれは苦境にある」と訴えるのは、地元漁業協会のジョージ・バリシック(George Barisich)会長だ。BPは被害を受けた地元漁師らに多額の補償を行った。それでも、家を手放さざるを得なくなった漁師たちもいるとバリシック会長は打ち明ける。

 事故当時、漁師たちの多くは2005年のハリケーン・カトリーナ(Hurricane Katrina)の被害から、ようやく経済的に立ち直りかけていたところだった。だが、流出事故で漁場としていたメキシコ湾は3分の1が原油に汚染され閉鎖されてしまった。

 今では漁は再開され、海域でとれた魚介類は安全だと保証されている。だが、漁のコストが上がる一方、漁獲量は減り、魚介類の価格は下がった。

 ニューオーリンズ(New Orleans)南部のセントバーナード(St Bernard)で3代続く漁師のバリシック会長も、かつては8人を雇い、年間10万ドル(約810万円)を稼いでいた。だが事故後、社員は2人に減り、前年の売り上げは4万ドル(約320万円)の赤字に終わった。全てBPのせいだと、バリシック氏は非難している。(c)AFP/Jordan Flaherty

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