沈みゆくバンコク、洪水は不吉な未来の序章か タイ
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【11月9日 AFP】タイの首都バンコク(Bangkok)が、ゆっくりと沈んでいる――もともと湿地だった土地に作られたバンコクを襲った洪水は、気候変動による暗い未来への序章にすぎないと専門家たちが警告している。
バンコクは、タイ湾(Gulf of Thailand)から、わずか30キロ北方の低地帯に建設された。地球温暖化の影響で、タイ湾の海面は、2050年には現在よりも19~29センチ上昇しているだろうと、多くの専門家が予測する。
さらに、現在も定期的に氾濫を起こすチャオプラヤ(Chao Phraya)川も、水位が増していくことが予測される。
何も対策を講じなければ、「50年後には、バンコクのほぼ全域が海抜以下になる」と、気候変動を専門とするチュラロンコン大学(Chulalongkorn University)のアノンド・スニドボンス(Anond Snidvongs)氏は言う。
バンコクを襲う脅威は、地球温暖化だけではない。工場や1200万の市民の需要を満たすため、長年にわたって大量の地下水をくみ上げてきたことによる沈下問題もある。
バンコクは1970年代、1年で10センチずつ地盤が低下したと、世界銀行(World Bank)とアジア開発銀行(ADB)、日本の国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation、JBIC)が2010年に報告している。
同報告によれば、その後は政府が地下水くみ上げ規制を導入したため、地盤の沈下は年1センチ未満まで減少した。
だが、アノンド教授は悲観的だ。バンコクは現在も、毎年1~3センチという「懸念すべきレベル」で沈んでいるという。
■沈むバンコク
主張する数値に差はあれ、巨大都市を待ち受ける運命については、みな見方は一致している。
「もう昔にはもどれない。バンコク(の地盤)が再び上昇することはないのだ」と、ADBの気候変動専門家、デービッド・マコーリー(David McCauley)氏は言う。
世界銀行も、地盤沈下、温暖化、海面上昇と3つの脅威に直面し、2050年のバンコクでは洪水リスクが現在の4倍に高まっていると予測する。
さらにバンコクは、経済協力開発機構(OECD)が2070年までに世界で最大の沿岸洪水危機に瀕すると警告した10都市にも名を連ねている。
■対策はできるのか?
これまでバンコクは、沿岸の水位上昇への対策として土のう、運河、水門、排水施設などを使った複雑な方法に依存してきた。だがこれでは、市北部から押し寄せる大量の水を食い止めることはできず、すでに少なくとも市の5分の1が浸水した。
モンスーンの影響で3か月も降り続く豪雨で発生した洪水は、いまやバンコク随一の繁華街に迫り、高級ホテルやオフィス、ショッピングモールが危険にさらされている。
急速に都市化を進めたことも、巨大都市を洪水に対して脆弱(ぜいじゃく)にした一因だと、専門家は指摘する。
フランスの治水専門家、フランソワ・モレ(Francois Molle)氏は、バンコクの問題は、洪水対策を要する地域が拡大する一方で、ビル建設がすすみ、あふれた水の行き場がないことだと言う。モレ氏は、いずれバンコクが水没することは確実で、問題はその時期がいつかということだけだと語った。
■都市丸ごと移設案も
専門家たちは、バンコクの土地利用や開発計画に対するタイ政府の取り組みの必要性を説き、工場や工業団地を洪水被害の懸念がない地域に移設することを提案する。
もしくは、バンコクを丸ごと移設してしまうことも一案だ。
アノンド教授も、「1日24時間、1年365日、洪水の不安のない暮らしを望む人たちにとっては、新都市を建設することがふさわしいかもしれない」と語る。「新都市建設に適した乾いた土地があるはずだ。タイには広い土地が、あちこちにあるのだから」
首都の丸ごと移設は、あまりにも大胆なアイデアに聞こえるかもしれない。だが、海に沈んだとされる伝説のアトランティス(Atlantis)大陸と同じ運命をたどりたくなければ、バンコクが行動すべき時であることは明白だ。
海岸工学が専門の英サウサンプトン大学(University of Southampton)のロバート・ニコルズ(Robert Nicholls)教授は、バンコクが現在の地にとどまるためには、より強固な保護対策が必要だと指摘。さらに、現在の洪水被害によって、バンコクは今後10~20年、洪水対策に巨大な投資が行われることになるだろうと語った。(c)AFP/Amelie Bottollier-Depois
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バンコクは、タイ湾(Gulf of Thailand)から、わずか30キロ北方の低地帯に建設された。地球温暖化の影響で、タイ湾の海面は、2050年には現在よりも19~29センチ上昇しているだろうと、多くの専門家が予測する。
さらに、現在も定期的に氾濫を起こすチャオプラヤ(Chao Phraya)川も、水位が増していくことが予測される。
何も対策を講じなければ、「50年後には、バンコクのほぼ全域が海抜以下になる」と、気候変動を専門とするチュラロンコン大学(Chulalongkorn University)のアノンド・スニドボンス(Anond Snidvongs)氏は言う。
バンコクを襲う脅威は、地球温暖化だけではない。工場や1200万の市民の需要を満たすため、長年にわたって大量の地下水をくみ上げてきたことによる沈下問題もある。
バンコクは1970年代、1年で10センチずつ地盤が低下したと、世界銀行(World Bank)とアジア開発銀行(ADB)、日本の国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation、JBIC)が2010年に報告している。
同報告によれば、その後は政府が地下水くみ上げ規制を導入したため、地盤の沈下は年1センチ未満まで減少した。
だが、アノンド教授は悲観的だ。バンコクは現在も、毎年1~3センチという「懸念すべきレベル」で沈んでいるという。
■沈むバンコク
主張する数値に差はあれ、巨大都市を待ち受ける運命については、みな見方は一致している。
「もう昔にはもどれない。バンコク(の地盤)が再び上昇することはないのだ」と、ADBの気候変動専門家、デービッド・マコーリー(David McCauley)氏は言う。
世界銀行も、地盤沈下、温暖化、海面上昇と3つの脅威に直面し、2050年のバンコクでは洪水リスクが現在の4倍に高まっていると予測する。
さらにバンコクは、経済協力開発機構(OECD)が2070年までに世界で最大の沿岸洪水危機に瀕すると警告した10都市にも名を連ねている。
■対策はできるのか?
これまでバンコクは、沿岸の水位上昇への対策として土のう、運河、水門、排水施設などを使った複雑な方法に依存してきた。だがこれでは、市北部から押し寄せる大量の水を食い止めることはできず、すでに少なくとも市の5分の1が浸水した。
モンスーンの影響で3か月も降り続く豪雨で発生した洪水は、いまやバンコク随一の繁華街に迫り、高級ホテルやオフィス、ショッピングモールが危険にさらされている。
急速に都市化を進めたことも、巨大都市を洪水に対して脆弱(ぜいじゃく)にした一因だと、専門家は指摘する。
フランスの治水専門家、フランソワ・モレ(Francois Molle)氏は、バンコクの問題は、洪水対策を要する地域が拡大する一方で、ビル建設がすすみ、あふれた水の行き場がないことだと言う。モレ氏は、いずれバンコクが水没することは確実で、問題はその時期がいつかということだけだと語った。
■都市丸ごと移設案も
専門家たちは、バンコクの土地利用や開発計画に対するタイ政府の取り組みの必要性を説き、工場や工業団地を洪水被害の懸念がない地域に移設することを提案する。
もしくは、バンコクを丸ごと移設してしまうことも一案だ。
アノンド教授も、「1日24時間、1年365日、洪水の不安のない暮らしを望む人たちにとっては、新都市を建設することがふさわしいかもしれない」と語る。「新都市建設に適した乾いた土地があるはずだ。タイには広い土地が、あちこちにあるのだから」
首都の丸ごと移設は、あまりにも大胆なアイデアに聞こえるかもしれない。だが、海に沈んだとされる伝説のアトランティス(Atlantis)大陸と同じ運命をたどりたくなければ、バンコクが行動すべき時であることは明白だ。
海岸工学が専門の英サウサンプトン大学(University of Southampton)のロバート・ニコルズ(Robert Nicholls)教授は、バンコクが現在の地にとどまるためには、より強固な保護対策が必要だと指摘。さらに、現在の洪水被害によって、バンコクは今後10~20年、洪水対策に巨大な投資が行われることになるだろうと語った。(c)AFP/Amelie Bottollier-Depois
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