【10月30日 AFP】カナダの国の動物(国獣)であるビーバーを「歯科的に欠陥のあるネズミ」と呼び、代わりにホッキョクグマを国獣にしようと提案したカナダの上院議員にカナダ全土から非難が集中した。

 カナダのニコール・イートン(Nicole Eaton)上院議員は27日、「ビーバーがカナダの国獣から退くか、あるいは少なくともホッキョクグマとその名誉を分かち合うときが来た」と語り、世界最大の陸生肉食獣であるホッキョクグマをカナダの新たなシンボルにしようと提案。ホッキョクグマの「力強さ、勇気、才覚、威厳」をたたえ、「北極に数千年間君臨してきた、カナダで最も堂々として立派なほ乳類」と表現した。

 しかし、一夜明けた28日、カナダ国民の間ではこの提案に反対する声が上がった。

 あるブロガーは「ビーバーはカナダ全土に生息する誇り高い国獣だ」と述べ、「人間が住めないような地域にだけ生息し、もうすぐ絶滅するかもしれない肉食獣(のホッキョクグマ)をビーバーの代わりにしようだなんて、いったい誰が思うだろうか?」と述べた。

 また、カナダ国内で販売されているコカコーラ(Coca-Cola)の缶にはホッキョクグマの絵が描かれていることから、国獣にするのであればコカコーラから権利を買わなければならなくなるだろうと皮肉を言う人もいた。

■カナダの歴史に根ざす国獣

 ビーバーは、カナダの国獣になったのは1975年とそれほど昔のことではないが、同国の歴史で重要な役割を果たしてきた。初期のフランスと英国からの入植者は、欧州で帽子の原材料として使われていたビーバーの毛皮を追って北米大陸の奥へと進んだ。600万匹いたとされるビーバーの生息数は毛皮交易が始まってから減少し、ファッションのトレンドがシルクハットに移ってビーバーの毛皮が珍重されなくなった19世紀中ごろには絶滅寸前になっていた。

 ビーバーが初めてシンボルとして登場したのは1621年、現ノバスコシア(Nova Scotia)州の地域の紋章としてだった。ビーバーの意匠はハドソン湾会社(Hudson's Bay Company)やカナダ太平洋鉄道会社(Canadian Pacific Railway Company)の社紋、カナダで最初の切手にも使われた。

 また今では、カナダ国会議事堂の入口の上には大きなビーバーの石像がある。カナダの5セント硬貨の裏面にもビーバーの姿が描かれている。

 一方、ホッキョクグマの国獣化を支持する人びとは、カナダの2ドル硬貨にホッキョクグマが描かれていることから、「ホッキョクグマ1頭はビーバー40匹分の価値がある」と指摘している。(c)AFP