【7月18日 AFP】森林破壊によって起こりうるリスクの面でも、逆に森林再生がもたらしうる潜在的利益の面でも、地球の気候システムにおける森林の役割はこれまでに考えられていたよりもずっと大きいと指摘する研究論文が14日、米科学誌サイエンス(Science)に発表された。

 この研究では熱帯、温帯、寒帯の気候帯別に、森林が大気中の温室効果ガスを吸収する量について、これまでで最も正確な評価を行った。1990年から2007年までの森林調査の結果や気候モデル、衛星データなどを合わせ、世界の森林が大気の調整弁として果たしている役割に迫った。

 論文の共著者に名を連ねるオーストラリア国立自然科学産業研究機関(CSIRO)の研究員、ジョゼプ・カナデル(Josep Canadell)氏は「人類が排出した二酸化炭素(CO2)を大気中から除去する上で森林が非常に大きな役割を果たしている証拠が、初めて全地球規模で示された」と語り、「もし明日にでも森林破壊を止めれば、既存の森林と再生森林を合わせて、化石燃料の使用によって排出されるCO2の半分を除去できる」という発見は「予想していなかった」と同氏は驚いている。

■意外に大きな熱帯再生林の炭素吸収力

 今回の研究では、1990~2007年に森林が、大気中で主に二酸化炭素の形で存在する炭素を、年間約24億トン吸収したと推定している。これは化石燃料によって1年間に排出される炭素の3分の1にあたるという。

 一方で論文は、食料や燃料生産、開発のため主に熱帯地方で進んでいる森林破壊によって、年間約29億トンの炭素が放出されたとしている。これは人類の活動によって放出される排出量全体の25%を超えるという。従来の研究では、森林破壊で放出される温室効果ガスの量は全排出量の12~20%程度と考えられていた。 

 熱帯地方で土地開墾のための伐採や野焼きの後に再生した熱帯林のCO2吸収力の高さは、大きな驚きだった。カナデル氏らの推計によると、熱帯林の再生によって毎年平均16億トンものCO2が大気から吸収されているという。

 過去10年間の年間CO2吸収量を気候帯別に見ると、緯度の高い寒帯の森林が18億トン、温帯の森林が29億トン、熱帯の森林が37億トンとなっている。しかし、熱帯の森林の破壊と再生も計算に入れると、熱帯林は事実上のカーボン・ニュートラルになっていた。

 気候のばらつきや昆虫による害といった様々な要因で年ごとに変動があり、長期的な傾向を予測するには今回の研究で使った20年分に満たないデータでは十分ではない。しかし、2005年にアマゾン地方で起きた「100年に1度」の大干ばつで、この地方の熱帯林のCO2吸収量が大幅に落ちたことは示されている。今回の研究対象期間後の2010年にもアマゾンはさらにひどい干ばつに見舞われている。

■森林の位置づけ見直しを

 今回の新たな数字を合わせると、地球上で年間に石炭、石油、ガスの燃焼によって排出されるものの13%にあたる約11億トンの炭素を吸収する能力が、地球全体の森林にあることが分かった。「これだけの量を、現在のCO2削減計画や、欧州の排出取引市場での価格に置き換えれば、何十億ユーロもの『節約』になる」(カナデル氏)

 気候変動政策の面から言えば、今回の研究はふたつの重要なことを示唆している。ひとつはこれまでの科学が、森林の炭素吸収力と森林破壊による排出量の増加の両方を過小評価していたという事実。カナデル氏は「気候を守る戦略としての森林は、従来考えられていたよりも中心的な位置にある」と指摘する。

 もうひとつは、登場しつつある排出取引市場において、森林はもっと大きな役割を担うべきだという点だ。(c)AFP/Marlowe Hood