原発危機が気候変動問題にもたらしうる二つの前途
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【3月15日 AFP】東北地方太平洋沖地震に続く福島の原子力発電所の危機によって、太陽発電や風力発電といったクリーンな再生可能エネルギーへの関心が高まるだろうが、一方で専門家は、二酸化炭素汚染の源として気候変動に弾みをつけている石炭や石油、ガスなどの従来型エネルギーに対する需要が強まる可能性も指摘している。
原子力は世界の電力供給全体の14%をまかなっているが、実際の利用は圧倒的に6か国に集中している。そして近い将来、それらの原発が姿を消す見込みはないと専門家らは言う。
エネルギー問題に詳しいパリ・ドフィーヌ大学(Universite Paris Dauphine)のエコノミスト、ジャン・マリー・シュバリエ(Jean-Marie Chevalier)氏は、既存の原子炉や建設中の原子力発電所に対する莫大な投資をかんがみれば、「日本の事故が原子力への死刑宣告にはならない」と強調する。
しかし、福島原発事故をとりまく恐怖によって、1986年チェルノブイリ(Chernobyl)原発事故の打撃から復活を遂げてきた原子力利用に、少なくとも短期間はブレーキがかかることだろう。
インド、米国、欧州諸国の各政府には、原発の安全基準の見直しや、新たな原発計画の凍結を求める圧力がかかっている。ドイツ、スイス政府は、既存の原発の運用年数を延期する計画を、安全審査を行うまで保留する方針を発表した。英バークレイズ・キャピタル証券(Barclays Capital)で再生エネルギーを専門とするアナリスト、ルペシュ・マドラーニ(Rupesh Madlani)氏は「最も少なく見積もっても1、2年は、原子力に対する巨額の投資計画は延期されたり、見送られるだろう」と語る。
■危ぶまれる化石燃料への逆行
これによる日本を含む世界のエネルギーの不足分は、短期的には化石燃料で穴埋めされると他の専門家は予測する。ロンドン(London)に拠点を置くエネルギー問題コンサルタント、世界エネルギー研究所(Centre for Global Energy Studies、CGES)のアナリスト、ジュリアン・リー(Julian Lee)氏は「日本の原子力産業の破たんは、石油やガスによる発電への依存が高まることを意味する」と指摘する。
仏モンペリエ大学(Monpellier University)エネルギー経済と法律研究センターのジャック・ペルセボワ(Jacques Percebois)氏も、供給力の高い化石燃料業界が恩恵を受けるだろうと言う。「新たな原子力エネルギー計画のモラトリアムを宣言する人びとは、莫大なエネルギー需要に応える現在可能な解決法は、太陽電池パネルではなく、ガスであるという点を理解すべきだ」。天然ガスも地球温暖化の原因とはなるが、石油ほどではなく、さらに石炭の比ではないと言う。
一方、国際エネルギー機関(International Energy Agency、IEA)のアナリスト、セドリック・フィリベール(Cedric Philibert)氏は、エネルギー不足を埋めるために、オーストラリア産の石炭を使った石炭火力発電所が日本に建設される可能性を懸念する。
■再生エネルギーへの転換が加速する可能性も
他方、原子力エネルギーに対する投資が減速する分、リーマンショックで歯止めがかかっていた再生エネルギーへの投資に資金が流れ込むかもしれない。先の英バークレイズのマドラーニ氏は「今後数年間、風力エネルギー、太陽エネルギーへの需要が年間10%ずつ増加する見込みがある」と言う。同氏は、メキシコ湾の原油流出事故以降の石油価格高騰や、石油採掘にかかるコスト増なども追い風要因に挙げる。
国連のクリスティアナ・フィゲレス(Christiana Figueres)気候変動枠組条約事務局長は、福島の原発事故によって原子力エネルギーのコストが高くなる一方で、再生エネルギーの競争力が高まると見る。13日、ベルリン(Berlin)で行われた国際再生可能エネルギー機関(International Renewable Energy Agency、IRENA)の会議に出席した同氏はツイッター(Twitter)にこう書き込んだ。「日本によって、エネルギーに関する世界の中期的シナリオは変わるだろう」
(c)AFP/Marlowe Hood and Anthony Lucas
【関連記事】「原発政策にブレーキを」、福島原発事故で揺れる米国
原子力は世界の電力供給全体の14%をまかなっているが、実際の利用は圧倒的に6か国に集中している。そして近い将来、それらの原発が姿を消す見込みはないと専門家らは言う。
エネルギー問題に詳しいパリ・ドフィーヌ大学(Universite Paris Dauphine)のエコノミスト、ジャン・マリー・シュバリエ(Jean-Marie Chevalier)氏は、既存の原子炉や建設中の原子力発電所に対する莫大な投資をかんがみれば、「日本の事故が原子力への死刑宣告にはならない」と強調する。
しかし、福島原発事故をとりまく恐怖によって、1986年チェルノブイリ(Chernobyl)原発事故の打撃から復活を遂げてきた原子力利用に、少なくとも短期間はブレーキがかかることだろう。
インド、米国、欧州諸国の各政府には、原発の安全基準の見直しや、新たな原発計画の凍結を求める圧力がかかっている。ドイツ、スイス政府は、既存の原発の運用年数を延期する計画を、安全審査を行うまで保留する方針を発表した。英バークレイズ・キャピタル証券(Barclays Capital)で再生エネルギーを専門とするアナリスト、ルペシュ・マドラーニ(Rupesh Madlani)氏は「最も少なく見積もっても1、2年は、原子力に対する巨額の投資計画は延期されたり、見送られるだろう」と語る。
■危ぶまれる化石燃料への逆行
これによる日本を含む世界のエネルギーの不足分は、短期的には化石燃料で穴埋めされると他の専門家は予測する。ロンドン(London)に拠点を置くエネルギー問題コンサルタント、世界エネルギー研究所(Centre for Global Energy Studies、CGES)のアナリスト、ジュリアン・リー(Julian Lee)氏は「日本の原子力産業の破たんは、石油やガスによる発電への依存が高まることを意味する」と指摘する。
仏モンペリエ大学(Monpellier University)エネルギー経済と法律研究センターのジャック・ペルセボワ(Jacques Percebois)氏も、供給力の高い化石燃料業界が恩恵を受けるだろうと言う。「新たな原子力エネルギー計画のモラトリアムを宣言する人びとは、莫大なエネルギー需要に応える現在可能な解決法は、太陽電池パネルではなく、ガスであるという点を理解すべきだ」。天然ガスも地球温暖化の原因とはなるが、石油ほどではなく、さらに石炭の比ではないと言う。
一方、国際エネルギー機関(International Energy Agency、IEA)のアナリスト、セドリック・フィリベール(Cedric Philibert)氏は、エネルギー不足を埋めるために、オーストラリア産の石炭を使った石炭火力発電所が日本に建設される可能性を懸念する。
■再生エネルギーへの転換が加速する可能性も
他方、原子力エネルギーに対する投資が減速する分、リーマンショックで歯止めがかかっていた再生エネルギーへの投資に資金が流れ込むかもしれない。先の英バークレイズのマドラーニ氏は「今後数年間、風力エネルギー、太陽エネルギーへの需要が年間10%ずつ増加する見込みがある」と言う。同氏は、メキシコ湾の原油流出事故以降の石油価格高騰や、石油採掘にかかるコスト増なども追い風要因に挙げる。
国連のクリスティアナ・フィゲレス(Christiana Figueres)気候変動枠組条約事務局長は、福島の原発事故によって原子力エネルギーのコストが高くなる一方で、再生エネルギーの競争力が高まると見る。13日、ベルリン(Berlin)で行われた国際再生可能エネルギー機関(International Renewable Energy Agency、IRENA)の会議に出席した同氏はツイッター(Twitter)にこう書き込んだ。「日本によって、エネルギーに関する世界の中期的シナリオは変わるだろう」
(c)AFP/Marlowe Hood and Anthony Lucas
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