【9月8日 AFP】デンマーク領グリーンランド(Greenland)や南極西部における氷床の溶解速度は、懸念されているよりも遅いとしたオランダと米国の研究チームによる論文が7日、英科学誌ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)9月号に掲載された。

 過去2年間にわたって複数の研究チームが実施してきた調査では、毎年、グリーンランドで約2300億トン、南極西部で1320億トンの氷床が溶解しているとされてきた。

 双方の溶解量を合わせると、海面は毎年0.3センチ上昇することになる。1960年代の年間海面上昇レベル0.18センチと比較すると、劇的な変化だ。

 こうした見解に、オランダ・デルフト工科大学(Delft Technical University)のベルト・フェルメールセン(Bert Vermeersen)氏と米航空宇宙局(NASA)の研究チームが異議を唱えた。

 ネイチャー・ジオサイエンス誌に掲載された研究論文によると、これまでの氷床溶解調査では、氷河の均衡調整現象が考慮されていないという。「氷河の均衡調整」とは、後氷河期に起こった地殻の反動を指す言葉だ。

 かつて、南極や北半球の大部分は数キロメートルもの厚みをもつ氷河で覆われていた。この氷の巨大な重みが、地殻の動きを上から押さえつけていた。

 だが、約2万年前に氷河の後退が始まると、地殻は反動を始めた。反動は現在も続いているという。

■寝たあとのマットレスに例える

 フェルメールセン氏はAFPの電話取材に対し、地殻の反動は垂直方向だけではなく横向きにも働くと説明した。

「ベッドのマットレスが良い例でしょう。一晩中、寝ている人を支えた後のマットレスは、人の重みでくぼんでいます。朝になって人が起き上がると、マットレスは元の形に戻ろうと反発します。この反発の動きを間近で見ると、上向きと下向きの動きだけでなく、横向きにも動くことが分かります。これは、圧縮されたマットレスの詰め物が外向きに反発し、元の形に戻ろうと引き合うためです」(フェルメールセン氏)
 
 フェルメールセン氏の研究チームは、衛星2基が2002年から行っている地表のGPS(衛星利用測位システム)観測画像や海底圧力データを分析し、地球の重力場におけるわずかな変化に着目した。

 その結果、グリーンランド南部の地盤が沈下しつつあることがわかった。北米で起きた後氷河期の地殻反動で、氷床下の地殻が引っ張られているためだ。

 研究チームはこれに氷河の均衡調整を加味し、グリーンランドにおける氷床の溶解は年間1040億トンで誤差はプラスマイナス230億トン以内。南極西部の氷床溶解では640億トンで、誤差は320億トン以内と計算した。

 この計算結果から、研究チームはグリーンランドと南極西部における氷床の溶解が進む速度は、これまでに考えられてきた速度の半分程度にすぎないと結論付けた。

 フェルメールセン氏らが導き出した数値が正しければ、この2地域における氷床減少は、地球の氷床全体の50%ではなく30%に相当。残りは、主に海水温の上昇に伴う熱膨張による可能性があるという。(c)AFP/Richard Ingham