【6月21日 AFP】クジラやイルカはこれまで考えられてきた以上に賢いだけでなく、人間特有のものとされてきた自意識や社会文化なども備えている――。モロッコのアガディール(Agadir)で21日国際捕鯨委員会(International Whaling CommissionIWC)年次総会が開幕し、「クジラの命運」が国際的な議題となる中、一部の研究者からのこんな指摘が注目されている。

 海洋学者らによると、クジラやイルカなど80種以上から成るクジラ類は、高度な知能だけでなく、自意識、苦悩、社会文化を特徴としてもっているという。もしこれが事実であるならば、クジラやイルカなどは単なる海産物であるとの考えは退けられることになるかもしれない。

■自分の姿を理解するイルカ

 米ジョージア(Georgia)州アトランタ(Atlanta)にあるエモリー大学(Emory University)の神経生物学者、ローリ・マリノ(Lori Marino)氏は、「実地調査の結果から、多くのクジラ類が動物界で最も複雑な行動をする種の1つであることがわかっている」と指摘する。

 マリノ氏は10年前、バンドウイルカの体に小さなしるしを付け、鏡で自分の姿を見せる実験を行った。イルカたちが鏡像を眺めた後に、しるしを見たその行動から、マリノ氏はイルカが自己認識の感覚を持っていることが明らかだと結論付けた。

■苦悩するクジラ

 神経生物学者で、仏ピエール・アンド・マリー・キュリー大学(Pierre and Marie Curie University)エモーションセンター長のジョルジュ・シャプティエ(Georges Chapouthier)氏は、自己認識ができるということは、一部の高等霊長類と同様に、肉体的な痛みだけでなく、苦悩も感じることができるのだと語る。

 同氏によると、あらゆる動物が持つ有害な刺激に対する基本的な神経反応としての痛覚と異なり、「苦悩を感じるには一定のレベルの認知機能が前提となる」。

 知能に関していうと、クジラ類の脳のサイズは体重比で人間の次に大きい。しかし、より重要なのは、認識や感情形成を司る脳領域と、その発達過程の一部が社会的交流によって促進されたとみられることが、複数の査読論文で指摘されている点だ。

■クジラは文化を持つか

 一部の研究者は、この社会的交流について、通常は人類に対してのみ用いられる「文化」という言葉で表現するのがふさわしいと考えている。

「少なくとも一部のクジラ類の文化が洗練されたものであり、クジラにとって重要なものである可能性を示す証拠は増えている」と、カナダ・ノバスコシア(Nova Scotia)州ハリファクス(Halifax)にあるダルハウジー大学(Dalhousie University)のハル・ホワイトヘッド(Hal Whitehead)教授は指摘する。

 文化を、ある共同体から別の異なる共同体へと世代間を通じて継承される習得された行動と定義するならば、たとえばザトウクジラはまさに文化と呼べるものを持っているといえる。ホワイトヘッド教授らが科学誌「Biological Conservation」に発表した研究によると、繁殖シーズンの冬期になると、どの海域にいる雄クジラもほぼ同じ複雑な歌を歌う。だが、このクジラ間で共通した歌は、数か月や数年をかけて変化・発展していくのだという。

 今年2月に行われた米国科学振興協会(American Association for the Advancement of ScienceAAAS)の会合で、研究者たちは、クジラ類の認知能力と文化についての新たなデータを基に、国際的な野生動物保護の指針を策定すべきだと結論づけている。(c)AFP/Marlowe Hood