【12月4日 AFP】人類の活動が原因で気候変動が進み、地球規模の災厄が降りかかろうとしていることを示す証拠が次々と示されている一方、気候変動の脅威は誇張されているとか、まったくのうそだと言う人も相変わらず多い。

 例えば、英国で11月14日に発表された世論調査結果では、人類の活動が地球温暖化の原因になっていると回答したのは41%だけだった。

 なぜだろうか。

■快適な生活を捨てたくない

 ロンドン大学(University of London)の哲学教授で著書も多いアンソニー・グレーリング(Anthony Grayling)氏は、「現在の快適な生活をあきらめたくないという気持ちがある」と指摘する。このような傾向は欧米だけでなく、近年中間所得層が増えた中国、インド、ブラジルのような国々にもみられるという。

 米イリノイ(Illinois)州のノックス大学(Knox College)のティム・カッサー(Tim Kasser)教授(心理学)は、気候変動という現実はわれわれのアイデンティティと衝突すると話す。

「わたしたちは1日に何千回も、主に広告を通して、幸福で有意義な人生を送る秘訣は消費することだと聞かされてきた。ところが最近になって科学者や環境活動家が、過剰な消費や間違った消費が温暖化の原因の一部だと言い始めた」

■恐怖から目をそらしたい

 別の説明もある。世界は破滅に向かっているという恐ろしい真実から目をそらしたり、脅威を和らげて理解しようとするのは人間の本性だというのだ。

 パリ(Paris)のエコール・ポリテクニーク(Ecole Polytechnique)のジャンピーエル・ドュピュイ(Jean-Pierre Dupuy)教授(社会心理学)は、「破滅に際して、人間は自分が知っていることを信じようとしない」と語る。

 前述のグレーリング教授も「だれもが現実を否定し――あるいは否定したいと思い――あまり大きな責任を負わされたくないと思っている。ここに一種の断絶がある」と説明する。

 オーストラリア国立大学(Australian National University)のクリーブ・ハミルトン(Clive Hamilton)教授(公共倫理学)は、9月に英オックスフォード(Oxford)で開かれた気候変動の会議に出席したとき、科学者同士の会話を聞いて驚いたという。

 この会議のテーマは気温が4度上昇した場合に世界にどのような影響が出るかという問題だったが、科学者同士のフランクな会話では科学者が果たすべき役割についてなどではなく、「怖いだとか、最近眠れなくなったとか、そんなことを話していた」

■いつまで目をそらせるか

 脅威を感じた人間は、安心したり、脅威から目をそらすために、実にすぐれた才覚を示す。

 例えば、環境によい小さな行動をことさら強調する人もいる。「白熱電球を電球型の蛍光灯に替えて、自分の義務は果たしたと言う人もいる」(カッサー教授)。このような態度は米国でよく見られるという。

 温室効果ガスの排出削減に消極的な中国やインドをことさら非難したり、個人の力ではどうしようもないとため息をついてみせるのも、恐ろしい現実から目をそらしたいという心の働きの現れだ。

 しかし、いずれ現実は襲ってくる。

 オーストラリアの議会選に立候補している上述のハミルトン教授は、気候変動が現実であることを物語るショッキングな出来事を目の当たりにして、気候変動が現実だと認める人が増えていると話す。

「気候変動の現実を理性ではなく感情に訴えるような出来事は、今後数年間でますます増えていくでしょう」

 国家が破綻したり、バングラデシュのような温暖化に脆弱な国で大災害が起きたりするなどの衝撃的な事態が2、3発生しないと、現実を認めないかもしれないとグレーリング教授は言う。「しかし、一度そうなれば『これは現実ではない』とか『科学的に解決できる、そのうち過ぎ去る』などと言うことはできなくなる」。(c)AFP/Marlowe Hood