【6月9日 AFP】ヘリコプターの中から東京湾を埋め立てた巨大なごみ捨て場を見下ろしながら、建築家の安藤忠雄(Tadao Ando)さんはある構想を思いついた。そこに広大な「海の森」を造ることだ。その構想は後に、東京都による2016年五輪の招致活動の一部としても役割を果たすことになる。

 約3600万人の人口を抱える世界最大の都市のひとつ、東京。当時の景観は見られたものではなかった。あふれかえるごみを運び込んでいた山間部の廃棄場はとうの昔に満杯になり、1970年代からごみによる埋め立てを始め、人口の島ができるほどになっていた。

 しかし、安藤さんは眺めていた88ヘクタールにもおよぶごみ処分場を、日本の首都の自然のオアシスに変えたいと思った。

 安藤さんはAFPとのインタビューで「日本は昔、森に覆われていたが、焼き払うなどして森林は減少し始めた」と語った。自然を取り戻し、地球温暖化を阻止する取り組みを進めるために、「海の森」を通じて環境保護のメッセージを強く訴えていきたいと強調する。「地球はごみ問題に直面しつつある。だから、わたしはごみを森に変えることができるということを示したい。この森は東京だけのものではなく、世界のものだ」

 東京は2016年夏季五輪の開催地に立候補しているが、これまでで最も環境に配慮した五輪を公約にしている。「海の森」もその目玉のひとつだ。石原慎太郎(Shintaro Ishihara)都知事はグリーン五輪の一環として、10年間で1000ヘクタールの緑地を造成することを約束している。

「海の森」予定地は、五輪のメインスタジアム予定地から約6キロ、皇居から10キロに位置し、都心とはトンネルで結ばれる。植樹の間をめぐる敷地内の道路は、都内で解体されたビルのがれきをリサイクルして造る。地下の下水道システムによってすでに、ごみなどから出た有毒物質が東京湾に流れ込まないよう処理されている。

 また「海の森」によって、緑地で冷却された風が都心部に流れ込み、ヒートアイランド現象を抑える自然の空調としての効果もあるという。

 安藤さんによると「海の森」に苗木を植樹をするため50万人に、1人あたり1000円の募金を呼びかけ、これまでに40万人が応じ、植樹も始まっているという。「海の森」予定地には、アイルランドのロック歌手ボノ(Bono)さんやノーベル賞受賞者、五輪金メダリストなどが植樹を行っている。

「この森は今は象徴だ。だが、環境改善は五輪のためだけではないから、五輪招致のあるなしにかかわらず、実現する」(c)AFP/Patrice Novotny

「海の森」プロジェクトのHP