【7月11日 AFP】今から5000年後、「危険!」の表示はどのように書かれているだろうか? 5万年後は? 大半の人にとって、この答えを見つけることは急務とは思われないだろう。

 しかし専門家の多くにとって、地下数百メートルに埋められた放射性廃棄物の危険性を遠い子孫に伝える方法を見つけるのは、非常にやりがいのある任務となっている。

 高レベル放射性廃棄物はこれまで、60年以上にわたり地上に大量投棄されてきた。だが現在、各国政府は莫大な予算を投じ、数万年、できれば数十万年の耐久性を有する地下廃棄施設の建設を始めている。

 こうした動きをきっかけに、死に至る廃棄物がそこにあることを未来の地球人に警告するための、適切な表示と言語の選択が急務となっているのだ。しかもこの表示により、廃棄物が核拡散につながりうること、あるいは、未来の技術で再生が可能になっていれば燃料資源になりうることも伝えなければならない。

■進化衰退の速い言語、子孫は解読できない可能性も

 言語の進化速度は速い。11世紀の英語は、21世紀の英語とまったく別物だ。また、戦争や気候変動などによって、人々は居住地の移動を余儀なくされることもある。

 言語は死滅することもある。今日、死語となっている言語の中には、黄金期には世界最先端の文明に属していたものもある。

 その一方で、わずか数千年前の古代エジプトの象形文字が解明に数世紀を要し、それよりも近い時代のマヤ文字は現在も謎に包まれていたりもする。

 つまり数世紀後の人類には、今日の主要言語や慣習、シンボルなどが解読不能となっている可能性があるのだ。未来にもなおプルトニウムやセシウムの汚染廃棄物に致死性があったとしても、その脅威が伝わらない恐れがある。

 地下廃棄施設に近寄らないよう子孫に警告するには、単に赤字で危険を示す看板を設置するだけでは十分ではない。彼らにとってその看板は「ほら、ここを掘ってごらん。宝物が埋まってるよ」を意味するかもしれないのだ。

■各国・期間が対策検討

 米ニューメキシコ(New Mexico)州にある軍事用放射性廃棄施設「米国廃棄物隔離パイロットプラント(Waste Isolation Pilot PlantWIPP)」の研究員は、石にシンボルを彫り込んだ、数千年の耐久性を有する巨大防御壁の建設を検討している。

 米環境保護局(Environmental Protection AgencyEPA)によると、潜在的な危険を伝えるために、さらに多様な伝達手段と言語で情報を伝えるという。

 一方、欧州では、警告が世代を通じて伝わるよう、将来的に廃棄施設は人間社会に組み込まれるべきだという考え方が主流となっている。

 経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and DevelopmentOECD)・原子力機関(Nuclear Energy AgencyNEA)の廃棄物管理専門家Claude Pescatore氏は、「社会から完全に切り離された廃棄施設を作るべきではない」と主張。

「廃棄施設は隔離されたところで稼働するのではなく、社会の一部として作るべきだ。そうすることで安全性は、損なわれるのではなく、かえって強化される」(Pescatore氏)

 文明社会はそのような場所の管理人となり、口頭で、あるいは文書で、次の時代に絶えずその危険性を伝えていくべきだ、というのが彼らの主張だ。

 実際に、フランスの放射性廃棄物管理機関(Agence Nationale Pour la Gestion des Dechets RadioactifsANDRA)は現在、1000年の耐用性を持つ「永久用紙」に、非言語イメージを刻み込む実験を行っている。動物の丈夫な皮膚を用いた羊皮紙でできた中世の彩飾写本にヒントを得たものだ。

■20年以内に放射性廃棄物の長期貯蔵開始

 一方、核エネルギー反対派は、このような論議は、核開発の削減や停止といったより切迫した目標から逸脱したものだと主張する。

 とはいえ原油価格の高騰が続く中、核エネルギーは見直されつつある。反面、世界が新エネルギーに移行したとしても、同じ問題に直面するとの見方もある。

 高レベル放射性廃棄物の長期地中貯蔵は、少なくとも米国、日本、フランス、フィンランドの4か国で今後20年以内に開始される予定だ。(c)AFP