【7月3日 AFP】100万頭の乳牛に乳量を増加させる成長ホルモンを投与すると、自動車40万台分に相当する温室効果ガス削減が可能とする米研究チームの研究が、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)6月30日号に発表された。

 ニューヨーク(New York)のコーネル大学(Cornell University)のジュディス・キャッパー(Judith Capper)氏らの研究チームは、乳牛への遺伝子組み替えウシ成長ホルモン(rbST)の投与が温暖化防止につながると主張している。

 キャッパー氏は、大規模な牛乳生産には、広大な土地に加え、水や飼料も大量に必要であることを指摘。rbSTを使用すると生産者は需要を満たす量の牛乳を生産しながら、温室効果ガスを削減することができるとしている。

 米国では約15年前からrBSTが使われており、「組み換えウシソマトトロピン(recombinant bovine somatotropinrBST)」、「ウシ遺伝子組み換え型成長ホルモン」(recombinant bovine growth hormonerBGH)」、「人工成長ホルモン」などとも呼ばれる。米化学大手モンサント(Monsanto)は「ポジラック(Posilac)」の商品名で販売している。

 しかし、rbSTの使用に反対する意見も根強い。欧州連合(EU)は乳牛の健康への懸念からrbSTの使用を禁止しているし、rbSTは伝統的な小規模農家が生産する農産物価格を下げる大手企業の権益の象徴とみなされることもある。

  研究チームでは、100万頭の乳牛にrbST を投与すると、15万7000頭少ない乳牛で同じ量の牛乳が生産でき、乳牛の飼料もトウモロコシが49万1000トン、大豆が15万8000トン、飼料全体で最大230万トンの削減できるとしている。また、酪農に使う土地を最大で21万9000ヘクタール減らすことができ、土壌流出を年間で最大230万トン減らせるとしている。

 さらに研究チームは「酪農業界全体で乳牛にrbSTを投与すれば酪農の持続可能性が改善され、酸性化や藻の発生などの水質汚染の低減、地球温暖化対策への貢献にもつながるだろう」と期待を示している。

 国連(UN)の食糧農業機関(Food and Agriculture OrganizationFAO)が2006年にまとめた報告書によると、人間活動に起因するメタンガス(CO2以上に地球温暖化を促進する)の37%がウシの飼育によって排出されたもので、その大半が家畜の消化に伴って発生したものだという。また、人間活動に起因するアンモニア(酸性雨の原因となる)については64%がウシの飼育によって発生しているという。

 FAOのこの報告書は、ウシの飼育に起因するCO2は、人間活動に起因するCO2全体の9%を占め、世界全体では自動車が排出する量を上回るだけでなく、SO2(二酸化硫黄)などのCO2よりも有害な温室効果ガスも排出しているとしている。(c)AFP