【3月11日 AFP】米国がトウモロコシを原料としたエタノール生産を計画通り増やすと、メキシコ湾(Gulf of Mexico)の海洋生物に環境的「災害」をもたらす。このような研究結果が10日、Early Edition of the Proceedings of the National Journal of Sciences(電子版)に発表された。

 カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)の地理学者Simon Donner氏は、トウモロコシの増産はメキシコ湾の「死のゾーン」と呼ばれる低酸素地帯の状態を悪化させると指摘する。

「大半の生物は十分な酸素がなければ生きられない。海底に住む移動できない生物は恐らく死んでしまうだろう。魚は可能であれば移動するだろう」と同氏は語る。

 Donner氏と米ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)のChris Kucharik氏はコンピューターモデルを使い、2022年を目標年とする米国のバイオ燃料生産目標を達成するために十分なトウモロコシを生産した場合、メキシコ湾に流れ込むミシシッピ川(Mississippi River)とアチャファラヤ川(Atchafalaya River)の窒素汚染が10-34%悪化するとの結果を得た。一方、米国によるメキシコ湾の「死のゾーン」を縮小する目標は95%の確率で失敗するとしている。

「死のゾーン」が初めて観測されたのは約30年前。現在では、毎年夏には米国、メキシコ、キューバに囲まれたメキシコ湾の2万平方キロの範囲を覆うまでに至っている。

「死のゾーン」はイリノイ(Illinois)州、アイオワ(Iowa)州、ネブラスカ(Nebraska)州、ウィスコンシン(Wisconsin)州などのトウモロコシ畑で使われる窒素肥料によって間接的に引き起こされている。過剰な窒素はミシシッピ川に流れ込んで硝酸塩となり、藻の生育を促す。最終的に死んで海底に沈んで腐った藻は水中の酸素を吸収し、ほかの生物を死に至らしめる。

 Donner氏によると、米国本土では世界で消費されるトウモロコシの約半分を生産している。その一部は人間向けだが、大半は家畜の飼料またはエタノール生産用だ。

 研究は、硝酸塩汚染を制御すると同時にエタノール生産目標を達成する唯一の方法は、米国の農家が食肉用の家畜にトウモロコシを与えるのをやめ、農業管理技術を大幅に変更することだと指摘している。

「死のゾーン」の酸素濃度はすでに2ppm(100万分の2)以下まで下がっており、この地域でのすべての商用、スポーツ用の釣りは廃止されているという。

 Donner氏は、漁業はトウモロコシ生産ほどの経済的価値はないとし、「問題点についてもある意味では同様に考えることができる。米国の片側で発生した汚染が逆側に被害を与えるのだから」と指摘する。(c)AFP