【2月15日 AFP】地球上の海のほぼ全域が人類活動による環境破壊の危機に瀕していると警告する研究論文が、米科学誌サイエンス(Science)に掲載される。ハワイ大学(University of Hawaii)のキム・セルコー(Kim Selkoe)研究員らがまとめたこの論文は、人類の活動が海洋生態系に与える影響を初めて地球規模で研究したもの。

 これによると、各地の沿岸海域は排水で汚染され、カキ養殖場や漁場が消滅しつつあり、かつての大海原には小国ほどの大きさのゴミの島々が点在。海鳥やクジラも、船が残すゴミや原油により打撃を受けている。

 しかし、最も深刻な被害は気候変動によるものだ。「気候変動は、広範囲にわたって深刻な影響を及ぼしている」とセルコー氏は指摘する。

 北大西洋では1995-2005年の間に大幅な水温上昇が観測されている上、さらに広い範囲で地球温暖化による海水温の上昇が予想されているからだ。

 海水温の上昇はプランクトンの大繁殖を招き、食物連鎖における種の構成を大きく変化させ、さらには海洋生物の病気発生率を高めるうえ、海洋循環をも変化させてしまうという。

 また、二酸化炭素(CO2)を吸収した海水は酸性化し、海産植物も紫外線の増加による影響を受けている。

 セルコー氏は、さらに驚くべきこととして、全海域に生息する魚の80%が捕獲されている事実を挙げる。セルコー氏の説明によると「あらゆる海に漁船が待ちかまえており、魚が逃げ隠れする場所がない状態だ」という。

 人類が必要最低限の漁獲だけを行っていれば海洋生態系への影響も限定的だ。しかし、商業目的の大量漁獲の影響は大きく、商品にならない魚や網にかかって死んだ鳥類、海洋生物が大量に海に廃棄される。

 実際にカメや海鳥、クジラ、イルカの中には絶滅の瀬戸際に立たされている種も多い。

 気候変動、大量漁獲に次いで海洋被害の主因となっているのが、海上を往来する大量の船舶がもたらす燃料漏れや騒音だ。こうした船舶がさんご礁や大陸棚などを迂回するだけでも、海洋生物への影響は大幅に減少するという。

 セルコー氏らによると、最も被害が深刻な海域は、北海(North Sea)の大部分と南シナ海(South China Seas)、東シナ海(East China Seas)、カリブ海(Caribbean Sea)、北米大陸東岸、地中海(Mediterranean Sea)、紅海(Red Sea)、ペルシャ湾(Persian Gulf)、ベーリング海(Bering Sea)、それに太平洋西部の複数海域だという。

 一方、被害が小さい海域はわずか3.7%で、そのほとんどが氷に覆われ人類活動が制限される両極地域だという。

 しかし、論文共著者のNational Center for Ecological Analysis and Synthesisのキャリー・カッペル(Carrie Kappel)氏は「残念ながら、地球温暖化の影響で極地域の氷床も溶解しつつあり、人類活動が活発化している。これにより未開だった地域でも生態系が急速に悪化する恐れがある」と指摘している。(c)AFP