【4月18日 AFP】旧東ドイツの秘密警察シュタージ(Stasi)の将校と恋に落ちる政治犯を描き16日に放映されたテレビドラマに対し、賛否両論の声があがっている。

12 heisst: Ich liebe dich(君を愛する12の意味)』と題されたドラマは実話に基づいたもの。政治犯だったレジーナ・カイザー(Regina Kaiser)さんとシュタージの将校だったウーベ・カールステット(Uwe Karlstedt)さんは1981年、レジーナさんが投獄されていた収容所で出会い、恋に落ちた。2人は鉄のカーテン崩壊後に再会し結婚。自分たちの関係について本を著わした。

 ベルリン(Berlin)のホーエンシェーンハウゼン(Hohenschoenhausen)旧政治犯収容所を擁する記念館で館長を務める歴史家のフベルトゥス・クナーベ(Hubertus Knabe)氏は、ドラマを放映したARDテレビを非難。秘密警察により投獄された20万人もの人々の苦しみをないがしろにし、人の苦しみを喜ぶドラマの制作を依頼したとの声明を出した。「この作品は多くの人に、シュタージによる拘束がどのようなものだったか、誤った印象を与えるだろう。シュタージに投獄された人々にとって、檻の中で過ごした時間は人生最悪のときだった。拷問を繰り返す秘密警察に愛情を感じる人などいなかった」

 ニュース誌「シュピーゲル(Der Spiegel)」によれば、8つの被害者同盟が制作を担当したテレビ局MDRに放映中止を求めたが、受け入れられなかった。

 ドラマを監督したコニー・ワルター(Connie Walther)氏はシュピーゲルに「まだ見てもいないドラマを皆が批判している。どうやって公正な意見ができるというのか?」と語った。

 ドラマを称賛する新聞もある。ターゲスツァイトゥング(Tageszeitung)紙は、ドイツが新たな段階に入ったこと、かつての社会主義時代と折り合いをつけようとしていることを示したドラマだと評価した。「東西ドイツ統一後、シュタージに対する見解はヒステリックなものだった。しかし2007年にオスカーを獲得した『善き人のためのソナタ(The Lives of Others)』がシュタージに人間性を与え、これが分岐点となった」

 ドラマでヒロインのレジーナ役を演じた旧東ドイツ出身の女優クラウディア・ミヒェルゼン(Claudia Michelsen)は、ドラマに出演したおかげで当時に対する固定観念を捨てることができたと語った。「シュタージのスパイは愚か者、かわいそうなのは犠牲者のほう――いつもそんなふうに思っていた。でも実際には、誰にでもその人の物語がある。ドラマの主人公は、わかっていなかっただけなの」(c)AFP