【5月28日 AFP】スコットランド出身のスーザン・ボイル(Susan Boyle)さんが進出している英国のオーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント(Britain's Got Talent)』の決勝が、いよいよ30日に行われる。歌手になることを夢見て生きてきたが、世界的に有名になった今、ボイルさんは既に夢の世界を生きているのだ。

 野暮ったい服を身につけ、キスの経験もないというスーザンさんは48歳。『ブリテンズ・ゴット・タレント』で、ミュージカル『レ・ミゼラブル(Les Miserables)』の挿入歌「夢破れて(I Dreamed A Dream)」を歌い、世界の注目を浴びた。

 動画共有サイト「ユーチューブ(Youtube)」に投稿されたこのときのボイルさんの動画は約1億回も視聴された。女優デミ・ムーア(Demi Moore)や歌手ジョン・ボン・ジョヴィ(Jon Bon Jovi)をもとりこにし、米国やオーストラリア、そして日本や中国でもメディアがその歌声をたたえた。

 同番組の審査員ピアーズ・モーガン(Piers Morgan)は、ラリー・キング(Larry King)が司会を務める米トークショーに出演し、「スーザンの可能性は無限大だと思う」と語った。 「スーザンはプロの歌手になりたいんだ。世界中が彼女に夢中になるよ。少なくとも、この目的は果たせると思う」

 24日に行われた準決勝では、ミュージカル『キャッツ(Cats)』の「メモリー(Memory)」を披露したが、時々調子がずれるボイルさんを見たファンの中には、期待の大きさにボイルさんは耐えられるだろうかとユーチューブに書き込む人もいる。

 しかし、わずか1か月弱で自分の世界がガラッと変わってしまったボイルさんは、しっかり地に足をつけると強調する。「有名になったらあなたは変わるか?」とラリー・キングに尋ねられると、「なぜ変わるの?有名になったら、もう孤独じゃなくなるだけよ」と答えた。

■地味な生活から一転、スターダムへ

 有名になったにも関わらず、ボイルさんは無職で、ペットの猫と一緒に英エディンバラ(Edinburgh)郊外ブラックバーン(Blackburn)の公営住宅に暮らしている。

 これまでにもオーディション番組に出場したことはあったが、幸運をつかむことはできなかった。そして2年前、看病していた病気の母親が死亡すると、歌うことをあきらめていた。

 報道によれば、ボイルさんは生まれた時に酸素不足に陥り、学校ではいじめられたという。『ブリテンズ・ゴット・タレント』で初めてマイクの前に立った時、観客や審査員は白髪の交じった縮れ毛や濃い眉に失笑を漏らした。

 しかし、英メディアが「ヘアリー・エンジェル」と名付けたボイルさんが歌いはじめると、観客も審査員も圧倒された。

■メディアも大注目

 ボイルさんは、米国のトークショーには引っ張りだこになっている。さらに、テレビアニメ『シンプソンズ(The Simpsons)』や『サウスパーク(South Park)』などにもその名前が登場している。

 一方、質素な自宅の周囲にも、ボイルさんの一挙手一投足をカメラに収めようと報道陣が集まっている。先月には、髪を染めたり、眉を抜いたりする姿まで撮影された。

 ボイルさんが有名になった理由のひとつにインターネットがある。ユーチューブのボイルさんの動画は、史上最も再生回数が多いとの報道もある。マイクロブログサービス「ツイッター(Twitter)」も影響した。ここでボイルさんの歌声に涙したと書いたデミ・ムーアのコメントが、数々のメディアに取り上げられたのだ。

■人々の希望となったボイルさんの存在

 しかし、夢を実現させたいというボイルさんの静かな決意は、単なる技術よりもさらに強力な何かを訴えかける。

「スーザン・ボイルは、白鳥になる必要のない醜いアヒルの子だった。外見だけで人を判断する文化の残酷さに虐げられた多くの人たちの夢を、彼女がかなえている」。英タイムズ(Times)紙のコメンテーターは、こう解説した。

 モーガンはボイルさんの出現を、「世界一になるために、どこからともなくやってきた」と表現した。「スーザン・ボイルが1人で行ってきたことは、我々を笑顔にし、奮い立たせ、楽観的な気持ちを抱かせるということなんだ。世界中の人に『あの動画見た?』って言わせるなんて、とても素晴らしいことだと思うよ」

 英国のブックメーカー(賭け屋)でも、ボイルさんは優勝候補の一番人気になっている。優勝すれば、エリザベス女王(Queen Elizabeth II)も臨席する芸能イベント、ロイヤル・バラエティー・パフォーマンス(Royal Variety Performance)に出演する権利と10万ポンド(約1500万円)の小切手が与えられる。

 優勝の行方に関係なく、ボイルさんの未来は明るい。一部報道では、レコード会社との契約やアルバムリリースが決まっていると伝えられているほか、ロンドン(London)のウエストエンド(West End)で、アンドリュー・ロイド・ウェバー (Andrew Lloyd Webber)のミュージカルにも出演するという話まである。(c)AFP/Katherine Haddon