【7月16日 AFP】照明が落ち、スポットライトが斜めに射した。そこにはメガネを掛け、針金とスイッチで作られた金属製の翼が付いた青い作業着姿の日本人男性がいた。数秒後、SFとロックとサーカスが合わさったようなその瞬間、男性は突然腰を振り指を鳴らし、翼の端がリズムを刻んだ。

 彼の名は土佐信道(Nobumichi Tosa)(40)。日本のアートユニット、明和電機(Maywa Denki)の社長である。

 彼のユニットは、花の形をした木琴、歌うロボット、踊る人形など、全て100ボルトの電気で動くナンセンスな楽器で構成されている。明和電機は、土佐社長が自身のアートを披露する場として1993年に日本で立ち上げられた。

 「明和電機は、ソニー(Sony)、パナソニック(Panasonic)、マイクロソフト(Microsoft)のように、日本ではとても有名です」。

 シンガポールのコンサートホール、エスプラネード(The Esplanade)で行われた最近のパフォーマンス「メカトロニカ(Mechatronica)」で、土佐社長は観客に冗談めかして言った。テクノロジーと機械による80分間の風変わりな公演だった。

 土佐社長ほか3人の作業着姿の男性工員たちは、安っぽい振付けや日本人特有の仕草で踊りながら、手作りの楽器で日本の民謡やロックを演奏した。

 既にフランス、オーストリア、香港もツアーで回っているこの明和電機は、土佐社長の父の破産した真空管工場の名にちなんで名付けられた。

 自身の芸術を人々に受け入れてもらうことを目指し、電気会社として4人組みのユニットを結成し、オフビートな発明とパフォーマンスを展開したと土佐社長は語った。

 彼らの創作は日本の観衆の心に訴えるものがあった。「皆さん僕らの発明を気に入ってくれます」と土佐社長は言う。

 土佐社長は自身の作品を「製品」、展示会やライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶ。ファンクラブは、「明和電機協同組合(電協)」と、労働組合のような名称である。

 かつてはシンセサイザーを使って演奏していたが、普通の楽器に興味がなくなり、自分で発明することに決めた。

 会社の主な目的は芸術的創作だが、その一方で、米国、フランス、香港でも発売されているぜんまい仕掛けのおもちゃ「ノックマン(Knockman)」を始め、100種類以上の「製品」を考え出している。

 オリジナル楽器の中には購入できるものもある。

 「ナンセンスで役に立たない製品を作る会社です。でも本当に真面目に作っています」と話す土佐社長が着ている作業服は、20世紀後半の日本の高度経済成長を支えた中小電気企業の象徴である。

 会社の収益を明言することは控えたが、黒字だと言う。シンガポール公演中も、ためらうことなく売り込みを続ける。
 
 「ご紹介します。自動タップダンス・シューズです」。土佐社長はワイヤーでシューズと繋がった指を鳴らしながら、フラメンコのリズムを奏でる履き物を紹介した。

 故障や感電はショーの間によく起こると言う。
 
 土佐社長は、世間で人気のiPodやそれに似たポータブル音楽プレーヤーが出す音は、本来の音楽以上にデータが詰まってしまっていると言う。彼の複雑な機械から聞こえる音はそれとは正反対で、ほとんど生演奏である。

 彼が今まで発明した楽器の中で最も誇りに思っているのは「Seamoon」の名で知られる歌うロボット。このロボットと、自動演奏ギター、自動演奏木琴により、明和電機は機械だけでパフォーマンスを行うことが可能になった。

 「究極の楽器を作りたかったんです。作るのが一番難しいのは人間の声を再現する機械です」と土佐社長は言う。

 「一番お気に入りの創作品は?」との質問には、「僕です!僕は機械です。一番複雑で一番不可解です」と答えた。(c)AFP/Rachel Lim