【7月24日 AFP】「追っかけ取材」はカレン・ホバック(Cullen Hoback)監督の流儀ではない──だが、交流サイト最大手、米フェイスブック(Facebook)のマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)最高経営責任者(CEO)にインターネットの裏側について取材する機会は逃すには惜しいものだった。

「ザッカーバーグさん?私はドキュメンタリーを制作しています」と、独立系映画制作を手掛ける同監督は、カリフォルニア(California)州南部にある自宅そばの緑に覆われた歩道をTシャツにジーンズ姿で歩くフェイスブック創設者に呼び掛けた。

「いくつか質問してもよろしいでしょうか。プライバシーは死んだと思いますか。プライバシーについて本当はどのように考えていますか」

「君たちは録画してるのかい」とザッカーバーグ氏はきまり悪そうに応答した。「しないでもらえるかい」

「ええ。止められます」とホバック氏は応え、ビデオカメラのスイッチを切った。ザッカーバーグ氏の緊張はほぐれ、笑顔を見せてフェイスブックの広報チームにホバック氏を紹介すると語った──ホバック氏がスパイ眼鏡で録画を続けていることを知らずに。

 これはドキュメンタリー映画『Terms and Conditions May Apply(契約条件は適用されうる)』の一場面で、ホバック氏は、インターネット大手と政府が収集、共有、保管している膨大なオンラインデータについて疑問を投げ掛けている。

 映画のタイトルは、小さな字で長々と書かれ、インターネットユーザーのほとんどは読もうとさえしない、新たなオンラインサービスやアプリを使う際にユーザーが同意している──法的拘束力のある契約を結んでいることを知らずに──規約に由来する。

「(映画制作)全体の経験で最もクレイジーだったことは、自分がホラー映画を作っていることに気付かなかったことだ」と、ロサンゼルス(Los Angeles)を拠点に活動するホバック氏はAFPの電話取材で語った。

 くしくも、映画の公開は、米国家安全保障局(National Security AgencyNSA)の契約職員だったエドワード・スノーデン(Edward Snowden)容疑者が米当局による世界規模の情報監視活動について暴露したのと時期が重なった。

 オンラインのプライバシーについては「すでに人々の中に強い懸念があったのだと思う」とホバック氏。「けれど、スノーデン氏の周囲で起きたあらゆる出来事と(NSAの監視プログラム)PRISM(プリズム)スキャンダル、そして今もなお続く暴露により、この映画に対する関心は従来と全く異なるレベルに高まっている」

 映画の制作期間は2年、スノーデン容疑者が情報源として名乗り出た時点ですでにほぼ完成していたので、ホバック氏にはスノーデン容疑者についての言及を映画の最後に付け加えるだけの余裕があった。

「この出来事は今も継続して変わり続けている。キーボードから手を離して編集を止めるのが難しいよ」とホバック氏は語った。

 重大な暴露こそないが、この映画は、何年も前から続くインターネットのプライバシー問題を1つのストーリーの中に収めることに成功している。そのストーリーは今もなお、現実社会において続いているものだ。

 映画によると、典型的なインターネットユーザーにとって、好みのウェブサイトの利用規約を読むには180時間かかるという。これは1か月分の労働時間と同程度の時間だ。

「分かりにくく、網羅的だ。思いつく限り全てのことが考慮に入れられている」とホバック氏は語る。ホバック氏にとって、インターネットのプライバシーは「私たちの時代の最大の人権擁護問題」だという。

 ドキュメンタリーでは、「同意する」ボタンをクリックすることで、ユーザーがオンラインでの行動が記録され、第三者に共有され、あるいは通知なしで政府機関に渡されることを許可してしまっていることについても説明されている。

「(インターネットで使いたい)サービスを今ここで得られるか、それとも得られないかのどちらかだというのが問題だ。あなたの隣に座り、これらの契約事項について交渉をしてくれる人がいないのだ」

 ユーザーに通知せずに利用規約を変更したことで非難されたフェイスブックの創設者、ザッカーバーグ氏との歩道での遭遇で、ホバック氏には主張したかったことがあったという。

「彼にこう言わせたかった。『いいか、録画されたくないんだ』と。それで私はこう言おうと思った。『いいか、私たちのことを記録するな』と。それがあの場面の本当の動機だった」

 映画のウェブサイトは「tacma.net」。(c)AFP/Robert MACPHERSON