【2月23日 AFP】スーダンで無償の心臓病治療に取り組むイタリア人心臓外科医、ジーノ・ストラーダ(Gino Strada)氏(64)──その活動を取り上げたドキュメンタリー映画がこのたび、第85回アカデミー賞(Academy Awards)の短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。だが、ストラーダ氏は米ロサンゼルス(Los Angeles)で24日に開催される授賞式に、本当は出席したくないと語る。

「ここで手術をしている方がいい」。そう語るストラーダ氏は、スーダンの首都ハルツーム(Khartoum)にあるサラーム・センター(Salam Centre)の主任外科医だ。イタリアの非政府組織(NGO)「エマージェンシー(Emergency)」が運営する同センターは、アフリカで唯一、心臓切開手術を無料で提供する高度専門医療機関だとされている。

 キーフ・デビッドソン(Kief Davidson)氏とコリ・シェパード(Cori Shepherd)氏が監督・製作した『オープン・ハート(Open Heart)』は、同センターの活動を追ったドキュメンタリー映画で、今年のアカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた5作品のうちの1つ。心臓手術を受けるためルワンダからサラーム・センターにやってきた8人の子どもたちに焦点を当てている。

■アフリカでまん延するリウマチ性心疾患、年間30万人が犠牲に

 ストラーダ氏によると、センターの患者の大半は子どもや若者で、栄養失調や、リウマチ熱が原因で起こるリウマチ性心疾患を患っている。

 リウマチ熱は、欧州では抗生物質が広く普及した1960年代に事実上消滅したが、いまだにまん延が続くアフリカでは心臓疾患の最大の原因となっており、毎年30万人の死者を生んでいる。ストラーダ氏は「これは手術を受けることができないことが背景にある」と説明する。

 ルワンダ大虐殺が起きた1994年に設立されたエマージェンシーは、戦争や地雷の犠牲者や貧困層の人々に手術などの医療を無償提供する活動を、世界各地で行ってきた。サラーム・センターも、適切な医療は基本的人権であり、ビジネスではないとの信念から生まれた。

 世界各地でのエマージェンシーの活動同様、サラーム・センターも運営は寄付に頼っているが、同センターの場合はスーダン政府からも寄付を取りつけている点が独特だとストラーダ氏は言う。スーダン経済は苦境にあるが、政府は今年も約500万ドル(約4億6600万円)の支援を確約。これで経費の4割をまかなえるという。

 その一方で2011年から続くスーダン・ポンドの下落のあおりを受けたセンターは、手術を減らさざるを得ず、昨年の手術件数は前年の1500件から550件まで落ち込んだ。だがストラーダ氏によれば、手術件数は再び上昇に転じている。

 青いシャツのすそをズボンに入れないラフな格好でたばこをくゆらせ、時にエスプレッソをすすりながらAFPのインタビューに応じたストラーダ氏は、映画がアカデミー賞にノミネートされたことについて、次のように語った。「サラーム・センターを国際的に知ってもらう良い機会かもしれない。センターへの支援も増えるといいね」

 ストラーダ氏は現在、ハリウッド(Hollywood)での数日間の「PR活動とかなんとかいうもの」に向けた心の準備をしている。しかし米国へ発つ前に、南ダルフール(South Darfur)州からやってきた少女がストラーダ氏の執刀を待っている。少女の大動脈弁は、リウマチ性心疾患によって損傷を受けた。

 別の病棟では同じ手術を受けた35歳の女性が療養中だ。スーダンの農村地域から来たというこの女性は、「ここにこれた自分は運が良かった」と穏やかに話し、「映画が受賞することを願っています」と語った。(c)AFP/Ian Timberlake