【5月15日 AFP】第62回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)は14日、熱烈な同性愛を描いた中国映画と、映画・音楽の検閲への痛烈な批判を込めたイラン映画が相次いで上映され、世界の政治問題を意識させる1日となった。

 映画は、いずれも秘密裏に撮影され、自国当局の許可なしにカンヌに出品された。いずれの監督も、会見で、自国の検閲制度を容赦なく非難した。

■中国作品と検閲

 コンペティション部門に出品された『Spring Fever』は、中国の映画監督ロウ・イエ(Lou Ye、44)の最新作。監督は2006年、タブーとされている天安門事件を背景としたラブストーリー『天安門、恋人たち(Summer Palace)』を当局の許可無くカンヌに出品し、当局から5年間の映画制作禁止令を受けた。今回出品される映画は、この命令を無視して撮影されたもので、南京(Nanjing)でハンディーカメラを使って撮影した同性愛のシーンがふんだんに盛り込まれている。

 監督は会見で、「われわれは、撮影中はいつも、(当局に)止められるだろうと心の準備をしていたが、止められることはなかった。今この場にみんなと居られてうれしい」と語った。「わたしが、中国当局に制作を禁止された最後の監督になればよいのだが」とも話した。

■イラン作品と検閲

 イランのバフマン・ゴバディ(Bahman Ghobadi)監督の『No One Knows About Persian Cats』は、「ある視点」部門のオープニング作品として上映された。映画はテヘラン(Tehran)の地下室や納屋などで、わずか17日間で撮影された。無名の俳優たちを使った低予算の映画は、インディーロックからペルシャン・ラップ、ヘビメタまで、テヘランの活気あるアングラ音楽を鮮やかに映し出すとともに、検閲制度への批判を前面に出している。

 映画は秘密裏に撮影されたが、当局の許可無く撮影したとして2度逮捕され、そのたびに「ドラッグに関するドキュメンタリーを撮っている」とうそをつかざるをえなかった。

 監督は上映前に、AFPに対し、「イランには帰らないかもしれない」と話した。イランに帰っても映画を撮影する許可は得られないだろうと言う。

 先ごろイランの刑務所から釈放された日系米国人ジャーナリスト、ロクサナ・サベリ(Roxana Saberi)さんは、監督の恋人であり、この作品の脚本を担当した。しかし、イランの家族を心配し、カンヌには来ていない。

 映画祭のディレクターを務めるティエリー・フレモー(Thierry Fremaux)氏は、「カンヌ映画祭の目的は、世界の映画を紹介すると同時に、世界で今何が起きているかを示すことにある」と語っている。(c)AFP/Claire Rosemberg