S・ペン主演『ミルク』、同性愛テーマに重い扉を開くかアカデミー賞
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【2月21日 AFP】カウボーイ2人の同性愛関係を描いた『ブロークバック・マウンテン(Brokeback Mountain)』が2006年度の作品賞を逃してから3年、今年の第81回アカデミー賞(Academy Awards)では、ゲイの権利活動家ハーベイ・ミルク(Harvey Milk)をショーン・ペン(Sean Penn)が演じた『ミルク(Milk)』が作品賞にノミネートされている。
ハーベイ・ミルクは米国で初めて自分が同性愛者であることを公言しながら公職に選ばれ、カリフォルニア(California)州サンフランシスコ(San Francisco)市の市議会議員となったが、1978年に元同僚議員に射殺された人物。
映画『ミルク』はガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)監督が、このハーベイ・ミルクの生涯を描いた作品。22日に発表される今回のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞を含む8部門でノミネートされている。
■『ブロークバック・マウンテン』の無念から3年
しかし過去のアカデミー賞の実績を見ると、『ミルク』が複数部門でオスカーを総なめにするといった光景は予想しないほうがよいかもしれない。『ブロークバック・マウンテン』の前評判は高く、やはり8部門でノミネートされていたが、実際に受賞したのは監督賞、脚色賞、作曲賞の3部門で、作品賞は『クラッシュ(Crash)』に奪われた。『ブロークバック・マウンテン』の惨敗から、アカデミー賞には同性愛を扱った映画に最優秀賞を贈る構えがないのでは、という疑問も批評家たちから聞かれた。
アカデミー賞の投票は主催する米映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)の6000人以上の会員が行うが、選考基準や理由を明らかにすることはめったにない。
全米規模の同性愛者の権利擁護団体GLAAD(Gay & Lesbian Alliance Against Defamation)のニール・ジュリアーノ(Neil Guiliano)氏は「(『ブロークバック・マウンテン』の評価について)大多数に同性愛嫌悪があったとは思わないが、最優秀賞を覆すに十分な程度は存在したんだと思う。3年前からの教訓がアカデミー全員に浸透したと思うから、今年はみんな自分が本当にベストだと思う作品に素直に投票すると思う」と語る。
■徐々に変化してきたゲイムービーへのまなざし
一方で『ブロークバック・マウンテン』は、従来の映画が描いてきたカウボーイのイメージを覆し、保守派の批評家たちを憤慨させたが、『ミルク』が同じような激しい論議を呼ぶことはないと見る向きもある。
『ミルク』はあからさまな性的描写も少なく、どちらかといえば伝統的な伝記映画だからだと、南カリフォルニア大学(University of Southern California)のラリー・グロス(Larry Gross)教授(コミュニケーション論)は説明する。もしも『ミルク』が議論を呼び起こすとすれば、それは「主演のゲイ役を異性愛者がいまだ演じている点」だろうという。「何故いまだに同性愛の役者が主役を演じたり、カミングアウトするのが難しいのかという点だ」
それでも、GLAADのジュリアーノ氏は「(ゲイムービーが)メインストリームになったとは言わないが、一般的にはなってきている。過去に比べたら観客の受け入れ方も歓迎的でプラスの傾向だ」と述べ、何よりも長年の末に『ミルク』が、ショーン・ペンという大物役者を迎えてようやく完成したこと自体が、文化の変化そのものだと語った。「(同性愛に対する)受容度がこれだけ増したのは、メディアがこれまでよりも頻繁に公正に、そして正確に、わたしたちのストーリーを語るようになったからとも言える」(ジュリアーノ氏)
ロサンゼルス(Los Angeles)で同性愛者や両性愛者、トランスジェンダーたちの映画祭「アウトフェスト(Outfest)」のディレクターを務めるトッド・ヒューゼン(Todd Heusen)氏も同様に、ゲイムービーに期待する。
ヒューゼン氏は、1993年にトム・ハンクス(Tom Hanks)がエイズで死にゆく同性愛者を演じ、アカデミー主演男優賞を獲得した『フィラデルフィア(Philadelphia)』以降、米国の映画と同性愛を取り巻く環境は徐々に変化してきたと語る。
「あれから独立系のゲイシネマの成長があり、それから主流メディアやテレビ番組で同性愛者の役柄は特に増えた。そうしたことの積み重ねで『ブロークバック・マウンテン』が大成功し、今のようにメインストリームでも受け入れられる状況に至った」とヒューゼン氏は語る。「(ブロークバック)がノミネートされ、監督賞を取っただけでも大きな達成。巧みに愛のストーリーを語るとき、映画が持つ変化を起こす力が示される」(c)AFP/Tangi Quemener
ハーベイ・ミルクは米国で初めて自分が同性愛者であることを公言しながら公職に選ばれ、カリフォルニア(California)州サンフランシスコ(San Francisco)市の市議会議員となったが、1978年に元同僚議員に射殺された人物。
映画『ミルク』はガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)監督が、このハーベイ・ミルクの生涯を描いた作品。22日に発表される今回のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞を含む8部門でノミネートされている。
■『ブロークバック・マウンテン』の無念から3年
しかし過去のアカデミー賞の実績を見ると、『ミルク』が複数部門でオスカーを総なめにするといった光景は予想しないほうがよいかもしれない。『ブロークバック・マウンテン』の前評判は高く、やはり8部門でノミネートされていたが、実際に受賞したのは監督賞、脚色賞、作曲賞の3部門で、作品賞は『クラッシュ(Crash)』に奪われた。『ブロークバック・マウンテン』の惨敗から、アカデミー賞には同性愛を扱った映画に最優秀賞を贈る構えがないのでは、という疑問も批評家たちから聞かれた。
アカデミー賞の投票は主催する米映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)の6000人以上の会員が行うが、選考基準や理由を明らかにすることはめったにない。
全米規模の同性愛者の権利擁護団体GLAAD(Gay & Lesbian Alliance Against Defamation)のニール・ジュリアーノ(Neil Guiliano)氏は「(『ブロークバック・マウンテン』の評価について)大多数に同性愛嫌悪があったとは思わないが、最優秀賞を覆すに十分な程度は存在したんだと思う。3年前からの教訓がアカデミー全員に浸透したと思うから、今年はみんな自分が本当にベストだと思う作品に素直に投票すると思う」と語る。
■徐々に変化してきたゲイムービーへのまなざし
一方で『ブロークバック・マウンテン』は、従来の映画が描いてきたカウボーイのイメージを覆し、保守派の批評家たちを憤慨させたが、『ミルク』が同じような激しい論議を呼ぶことはないと見る向きもある。
『ミルク』はあからさまな性的描写も少なく、どちらかといえば伝統的な伝記映画だからだと、南カリフォルニア大学(University of Southern California)のラリー・グロス(Larry Gross)教授(コミュニケーション論)は説明する。もしも『ミルク』が議論を呼び起こすとすれば、それは「主演のゲイ役を異性愛者がいまだ演じている点」だろうという。「何故いまだに同性愛の役者が主役を演じたり、カミングアウトするのが難しいのかという点だ」
それでも、GLAADのジュリアーノ氏は「(ゲイムービーが)メインストリームになったとは言わないが、一般的にはなってきている。過去に比べたら観客の受け入れ方も歓迎的でプラスの傾向だ」と述べ、何よりも長年の末に『ミルク』が、ショーン・ペンという大物役者を迎えてようやく完成したこと自体が、文化の変化そのものだと語った。「(同性愛に対する)受容度がこれだけ増したのは、メディアがこれまでよりも頻繁に公正に、そして正確に、わたしたちのストーリーを語るようになったからとも言える」(ジュリアーノ氏)
ロサンゼルス(Los Angeles)で同性愛者や両性愛者、トランスジェンダーたちの映画祭「アウトフェスト(Outfest)」のディレクターを務めるトッド・ヒューゼン(Todd Heusen)氏も同様に、ゲイムービーに期待する。
ヒューゼン氏は、1993年にトム・ハンクス(Tom Hanks)がエイズで死にゆく同性愛者を演じ、アカデミー主演男優賞を獲得した『フィラデルフィア(Philadelphia)』以降、米国の映画と同性愛を取り巻く環境は徐々に変化してきたと語る。
「あれから独立系のゲイシネマの成長があり、それから主流メディアやテレビ番組で同性愛者の役柄は特に増えた。そうしたことの積み重ねで『ブロークバック・マウンテン』が大成功し、今のようにメインストリームでも受け入れられる状況に至った」とヒューゼン氏は語る。「(ブロークバック)がノミネートされ、監督賞を取っただけでも大きな達成。巧みに愛のストーリーを語るとき、映画が持つ変化を起こす力が示される」(c)AFP/Tangi Quemener