【10月11日 AFP】香港(Hong Kong)は映画作りの情熱を失ってしまった――。10日に閉幕した第13回釜山国際映画祭(Pusan International Film Festival)に出席した映画監督ウォン・カーウァイ(Wong Ka wai)は同日、低迷を続ける香港映画界に苦言を呈した。

 この日、同映画祭では1994年のウォン監督の作品『楽園の瑕(きず)(Ashes of Time)』(デジタルリマスター版)が特別上映された。上映前に会場に登場したウォン監督は、この作品が公開された当時と現在の香港の違いについて語った。

「1990年代初めの映画制作には、今とは全く違うものがあった。現在の香港に必要なのはそれだ。当時、われわれにはスピリットがあり、何でもできると思っていた。『楽園の瑕』に込められた情熱が今の香港映画界には必要なんだ」(ウォン監督)

■大半が中国本土の会社と共同制作

 現在、香港映画の年間制作本数は、50本以下と低迷している。香港映画の全盛期だった1980年代後半から90年代初めの年間300本と比べると激減した。

 そこで、香港映画界は中国本土へと目を向けた。本土の映画会社との共同制作に意欲的だ。ウォン監督によれば、『楽園の瑕』が制作された当時はそれほど一般的ではなかったが、現在では香港映画の約8割が共同制作という形を取っているという。

 ウォン監督は、この傾向は単に必要性の問題だとして「ある意味で映画界の今後のありかたを示している」と述べた。

■『楽園の瑕』で世界的監督に

 故レスリー・チャン(Leslie Cheung)、トニー・レオン(Tony Leung)、カリーナ・ラウ(Carina Lau)、マギー・チャン(Maggie Cheung)などそうそうたる面々が出演した『楽園の瑕』が公開された当時、ウォン監督の名前はそれほど知られていなかった。しかし、ドラマ性とアクションをスタイリッシュに織り交ぜたこの作品で、ウォン監督は世界の映画祭の常連となったのだ。

 ウォン監督も、この映画はとても大事な作品だと語る。「これは私の会社(Jet Tone Productions)」が制作した最初の作品だった。この映画で、私たちは自立することを学んだ。この作品がなかったら、『恋する惑星(Chungking Express)』や『花様年華(かようねんか)(In the Mood for Love)』は生まれなかっただろう」(ウォン監督)

 ウォン監督はその後、1997年の『ブエノスアイレス(Happy Together)』でカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)の監督賞を受賞、『花様年華』は国内外の映画祭で31の賞を獲得し、国際的にも高い評価を受け続けている。(c)AFP