【5月24日 AFP】人生に行き詰まってニューヨーク(New York)の実物大模型を作ろうとあがく脚本家を主人公にしたチャーリー・カウフマン(Charlie Kaufman)監督・脚本のコンペティション出品作品『Synecdoche, New York』が23日、第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)に登場した。

 この映画は、「鬼才脚本家」カウフマンの名を世に知らしめた『エターナル・サンシャイン(Eternal Sunshine of the Spotless Mind)』『マルコヴィッチの穴(Being John Malkovich)』『アダプテーション(Adaptation)』などのヒット作同様、シュールな世界を描く。カウフマンは、この映画で初めて監督を手がける。

 漠然としたタイトルは、映画の謎に満ちた世界の始まりでしかない。登場人物は現実と非現実の間をさまよい、観る側は、これは「現実」の物語なのか、フィリップ・シーモア・ホフマン(Philip Seymour Hoffman)演じる脚本家カデンが空想する物語なのかと迷うことになる。

 タイトルの「Synecdoche(提喩・代喩)」は、「一部で全体を表す」意味の用語だ。「地面に転がった軍靴」が「死傷した兵士たち」を指すことにも似ている。

 カウフマンは、脚本家カデンが住む街をSynecdocheならぬSchenectady(ニューヨークのスケネクタディ)に設定するという遊び心も忘れない。

 カデンにちょっかいを出す女性たちには、キャサリン・キーナー(Catherine Keener)、ジェニファー・ジェイソン・リー(Jennifer Jason Leigh)、ミシェル・ウィリアムズ(Michelle Williams)、エミリー・ワトソン(Emily Watson)、ダイアン・ウィースト(Dianne Wiest)、ホープ・デイビス(Hope Davis)、サマンサ・モートン(Samantha Morton)ら豪華女優陣が投入された。

■「監督をすることで脚本が深まった」

 カデンは、舞台演出家。妻のアデレ(キーナー)は、マイクロチップ大のキャンバスに絵を描くことに情熱を燃やし、カデンを捨ててベルリンに旅立つ。傷心のカデンは、おべっか使いの劇場アシスタント(モートン)の懐に飛び込む。

 カデンは、マッカーサー「天才」グラント(助成金)を思いがけなく受け取ることになり、倉庫にニューヨークの実物大模型を作り始める。カデンはそんな倉庫に出演者と裏方を押し込め、共同生活を強いる。

 批評家からは、「映画は9.11同時多発テロなどの災難をこうむったニューヨークの世紀末後の姿を描いたもの」「ホフマン演じる主人公は奇人カウフマンそのもの」といった声が聞かれる。 

 カウフマンは、映画の意味の説明は避け、「伝えるべきメッセージは何もない」と言い切る。

 監督初挑戦については、「アドリブを入れたり出演者と話し合ってせりふを変えたりすることで、脚本を深めることができた。ストレスも確かにあったけれども、監督の仕事をとても気に入った」と語る。「俳優たちとの共同作業は実に楽しい。登場人物を理解しようと思ったら伝えるべきことを伝えなくちゃ」

 カウフマンが脚本を担当した映画では監督を務めてきたスパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)は、今回はプロデューサーに回った。「カウフマンは自分を出すにつれてもっと大胆に、もっと勇敢になっていった」とジョーンズは振り返る。

「彼の脚本は、回を重ねるごとに粗野に、正直に、そして大胆になっていく。彼はダントツで僕のお気に入りの脚本家だよ」 

 一方、主演のホフマンは、複雑なストーリーと粗野な感情表現は難しかったが、カウフマン監督との信頼関係はすぐに醸成されたと語った。「カウフマンは、制作中、僕のあらゆる面を観察していた。時にはあまり気持ちがいいものじゃあなかったけどね。それについては語りきれない。脚本は恐らく、これまでの人生で出会った中では最高の一品だね」(c)AFP/Deborah Cole