【5月16日 AFP】(一部更新)第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で15日、レバノン・ベイルート(Beirut)のパレスチナ難民大虐殺を題材にしたアニメドキュメンタリー『Waltz With Bashir』がプレミア上映された。

 監督は、アリー・フォルマン(Ari Folman)。抑制された記憶、戦争の恐怖、イスラエルの行動を描いたこの作品は、コンペティション部門に出品されている。アニメドキュメンタリーが登場するのはカンヌ史上初めて。

 映画情報誌「スクリーン(Screen)」は、「この映画はカンヌで最も力強いメッセージを発する作品の1つで、戦争映画一般の倫理に永遠の刻印を残すだろう」と評している。

 作品は、犬たちが吠えながら市中を走り回る場面で始まる。バックには激しいロックが流れる。物語の主人公は、虐殺事件当時19歳のイスラエル軍兵士だった監督自身で、「穴だらけの記憶」を埋めようと自己を追求する。

 監督は、1982年のレバノン侵攻時に発生したベイルートの2つの難民キャンプでのパレスチナ人虐殺事件において、自分が何をやったかを思い出せずにいた。そこで、当時身近にいた人や事件に関わった人9人を探し出し、記憶をゆっくりと紡いでいった。その後、それを基に脚本を書き、アニメ化してくれる制作会社を見つけた。

「(アニメの形をとらなければ、)中年の男たちが20年前のことをとりとめもなくしゃべる、という内容になっていただろう」と監督は話す。アニメ化したことが功を奏して、「死・罪・後悔」といった悲惨な記憶が視覚的にも心情的にも訴える作品に仕上がった。

 最後の50秒間には、虐殺された人々の遺体の山と泣き叫ぶ人々のニュース映像が流れる。この映像が当時初めて世界に配信された時、海外だけでなくイスラエル国内でも抗議の嵐が吹き荒れた。

 監督は、この映像でしめくくる意図について、「アニメも音楽もクールだった、という感想だけで終わって欲しくないからだ」と語った。「数千人が殺されたという事実を正面からしっかり受け取め、見つめなければならない」

 監督は映画で、キリスト教系民兵組織によるこの虐殺事件にはイスラエルの軍と政府が加担したとの姿勢を明確に打ち出している。

 事件発生時、フォルマンらイスラエル軍兵士は難民キャンプ付近にいたが、一切手出しをしないよう命じられた。当時国防相だった故アリエル・シャロン(Ariel Sharon)元首相も、事件のことを知らされたが、なんの措置も講じなかった。

 この映画は事件について新たな事実を提示するものではない。だが、力強い反戦メッセージは、イラク戦争反対論者で知られる審査委員長のショーン・ペン(Sean Penn)の心に深く響きそうだ。前年審査員賞を受賞したアニメーション映画『ペルセポリス(Persepolis)』を制作したマルジャン・サトラピ(Marjane Satrapi)が審査員をつとめていることも、審査の点で有利に働くかもしれない。

 反戦ドキュメンタリーとしては、2004年にマイケル・ムーア(Michael Moore)監督の『華氏911(Fahrenheit 9/11)』が最高賞のパルム・ドール(Palme d’Or)を獲得している。(c)AFP/Rory Mulholland

カンヌ国際映画祭の公式ウェブサイト(英語)