【2月22日 AFP】アカデミー賞(Academy Awards)にこれまで19回ノミネートされながら、一度も受賞していない人物がいる。あまり光栄とはいえないこの記録を保持しているのは、ベテランの音響デザイナーのケビン・オコンネル(Kevin O'Connell)氏だ。同氏は今年の第80回アカデミー賞にも『トランスフォーマー(Transformers)』で録音賞にノミネートを果たし、ノミネート回数記録を20回に伸ばした。

 オコンネル氏ほど、立て続けに落胆を味わったオスカーノミネート者はいない。その歴史は1984年に『愛と追憶の日々(Terms of Endearment)』でノミネートされてから、2007年に『アポカリプト(Apocalypto)』にノミネートされるまで続いている。

 ほかのノミネート者なら受賞を逃したことを悲しむかもしれない。だが、オコンネル氏はノミネートされるだけで十分だと語る。

「『最大の敗者』と言われることが多いが、わたしはそんな風には考えていない。夢をあきらめてはだめだ。自分の仕事を同業者に認めてもらって、その年のトップ5に入れるだけで最高だね。ノミネートが発表されてから授賞式までの約30日間、ずっと雲の上に浮かんでいるような気分だよ」

 これまでは毎年、受賞スピーチを事前に用意していたが、今年はもし受賞したら、そのとき頭に浮かんだことのほか、この世界へ入るきっかけを作ってくれた亡き母親への感謝を述べる予定だという。

 オコンネル氏は以前、消防士の職についていた。あるとき3日間の山火事の消火活動を行って帰っると、腕にはやけどを負い、顔は真っ黒で、体重も激減していた。その様子を見た母親は「ひどい格好よ。フォックスの音響部門に職がないか聞いてみるわ」といって、当時自分が働いていた20世紀FOX(Twentieth Century Fox)への転職を勧めたのだという。

 こうして今の仕事に就くことになったオコンネル氏は、転職して数か月が過ぎた頃、母親に尋ねた。「この仕事をとても気に入っている。どうやってお礼をしたらいいかな?」。すると母親はこう答えた。「頑張ってオスカーを取って。そしたら、世界中の人々の前でわたしにお礼が言えるでしょう」

 今回のノミネートではオコンネル氏ひとりに注目が集まっているが、「録音には、膨大な数の人が携わっている。録音賞はチームワークをたたえるべきだ」と同氏は強調する。

 ノミネートされた『トランスフォーマー』の録音チームには、過去に12回のノミネートを果たしながら受賞を逃しているグレッグ・P・ラッセル(Greg P. Russell)氏と2回目のノミネートとなるピーター・J・デブリン(Peter J. Devlin)氏も参加している。(c)AFP