【2月17日 AFP】世界3大映画祭の1つに数えられる第58回ベルリン国際映画祭(The 58th Berlin International Film Festival)で16日、コンペティション部門の受賞作品・受賞者が発表された。最高賞である金熊賞(Golden Bear)には、ブラジルのジョゼ・パジーリャ(Jose Padilha)監督の『エリート・スクワッド(The Elite Squad)』が選ばれた。

 リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)の特殊部隊の腐敗と暴力を実話を元に描いた作品で、本国ブラジルでは大ヒット作となった。

 日本からは、熊坂出(Kumasaka Izuru)監督の『パーク アンド ラブホテル(Asyl - Park and Love Hotel)』が、新人監督賞にあたる最優秀初長編映画賞を獲得した。

 審査員特別賞に輝いたのは、イラクの旧アブグレイブ(Abu Ghraib)刑務所での米軍によるイラク人収容者虐待事件を題材にした『Standing Operating Procedure』。アカデミー賞受賞監督であるエロール・モリス(Errol Morris)氏による同作は、ベルリン国際映画祭に出品された初のドキュメンタリーとなった。

 監督賞は、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(There Will be Blood)』のポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)監督が獲得した。英国出身のダニエル・デイ・ルイス(Daniel Day-Lewis)が、圧倒的な演技力で冷徹な石油王を演じている。2000年に『マグノリア(Magnolia)』で金熊賞を獲得したアンダーソン監督は「ダニエルが出演すると、その映画の監督はだれでも名監督になれる」と語った。

 第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされている同作は、レディオヘッド(Radiohead)のギタリスト、ジョニー・グリーンウッド(Jonny Greenwood)が手掛けたオリジナル・サウンドトラックで、芸術貢献賞も獲得している。

 男優賞に選ばれたのは、『The Song of Sparrows』で、イランのテヘラン(Tehran)郊外に暮らす父親カリムを演じたイラン人俳優Reza Najie(65)。ダチョウ養殖場で働いているカリムは仕事を失いテヘランに移り住む。「わたしはイラン人として、そしてイスラム教徒として祖国を表現した」とNajieは語った。

 女優賞は英女優サリー・ホーキンス(Sally Hawkins)が手にした。マイク・リー(Mike Leigh)監督のコメディ『Happy-Go-Lucky』で、ホーキンスは底抜けに楽観的な教師を演じている。ホーキンスは「マイク(・リー監督)ほど俳優のことを思いやってくれる監督はいない」と、監督への感謝の意を述べた。

 脚本賞に選ばれたのは、中国の王小帥(Wang Xiaoshuai)監督による『Zuo You(In Love We Trust)』。同作は、離婚した中年カップルが、娘が白血病にかかっていることを知り、娘に骨髄を提供してくれる子どもを新たにもうけることを決意するという、メロドラマ的ストーリー。

■ブラジル社会の闇を描く『エリート・スクワッド』

 金熊賞の『エリート・スクワッド』は、同じくリオデジャネイロの貧民街を舞台にした2002年のヒット作『シティ・オブ・ゴッド(City of God)』とよく比較される。脚本は、特殊部隊出身者との共著。物語の舞台は、当時のローマ法王、ヨハネ・パウロ2世(John Paul II)がブラジルを訪問する直前の1997年。リオデジャネイロの特殊部隊Police Special Operations Battalion(BOPE)は、「法王が眠れるように」するため、当局より貧民街の「掃討作戦」を命じられる。

「国家がいかにして警官を腐敗に導いたか、最悪の場合暴力的な人間に変えていったかを描いた作品だ」とパジーリャ監督は語る。「ブラジルの国民の大半は、こうした状況を理解している。不可思議なことではないと思う」

 審査員らの間では、この作品に対する評価が大きく分かれていた。監督自身は暴力批判を意図していたものの、一部の批評家は監督が「残酷行為を称賛している」として非難している。同映画祭の観客たちからも、この受賞結果に対する驚きの声が上がっていた。

 ブラジル映画が金熊賞を獲得したのは、1998年の『セントラル・ステーション(Central Station)』以来のこととなる。
 
 11日間にわたり開催されベルリン国際映画祭は、17日に閉幕。期間中、400本近い作品が上映され、会場には125か国から約2万人が訪れた。(c)AFP