【1月29日 AFP】本年度アカデミー賞にノミネートされたポーランド映画『Katyn』のアンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda、81)監督が、1940年のポーランド軍将校大量虐殺事件を描いた同作品について語った。

■フィクションだが、史実に基づいた作品

 ワイダ監督は『Katyn』が同賞外国語映画部門候補の5作品の1つになったとの知らせを受けた後、「このようなテーマが受け入れられて本当にうれしく思う。これ以上、歴史を研究する価値はないという人もいるが、価値があったということだ」と話した。

 ワイダ監督によると、同作品はフィクションだが史実を基にしたことで作品に感情的な深みが与えられているという。作品中には、ナチスやソ連当局が撮影した映像も使用されている。

 同作は、1939年から1950年にかけてのポーランド南部の都市クラクフ(Krakow)を舞台に、愛する者の帰還を待ちわびる女性たちの姿を描いている。

 ワイダ監督の父親もポーランド軍将校大量虐殺事件の犠牲者のひとりだった。監督自身もポーランドのレジスタンス運動に参加し、1950年に映画業界に入った。

■隠され続けた真実

『Katyn』というタイトルは、第2次世界大戦中、約22,500人のポーランド将校が旧ソ連軍に虐殺された場所となった森の名前「カチン(Katyn)」からとったもの。この事件は、1939年に旧ソ連とナチス・ドイツがポーランドへ侵攻し分割統治を行った直後に発生。赤軍により捕らえられたポーランド人将校が反革命主義者とみなされ、内務人民委員部の秘密警察により殺害された。

 1941年に旧ソ連に侵攻したナチスが多数の遺体の埋葬地の存在を指摘したあとでも、事件の真相は長い間明らかにされなかった。旧ソ連はドイツ人を非難し、欧米はナチス・ドイツに対抗する強力な同盟国であった旧ソ連を敵に回さないため沈黙を守っていた。

 1989年まで共産主義圏だったポーランドでも、この事件はタブーとされ、1990年に当時のミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev)元ソ連大統領がソ連の責任を認めたとき、事件の真相が初めて明らかになる。

「ロシアの映画ファンは、自分たちの歴史から隠され変えられていた事実に驚くだろう」とワイダ監督は話す。

 ポーランドは1939年9月のソビエト侵攻の記念日にあたる前年9月に同作品が公開されたが、それ以降も国内で反ロシア感情が起こらなかったことを、監督は喜んでいるという。

■アカデミー賞では最有力候補か

 本年度のアカデミー賞で外国語部門にノミネートされているそのほかの作品は、カザフスタンの『モンゴル(Mongol)』、ロシアの『12』、イスラエルの『ボーフォート レバノンからの撤退(Beaufort)』、オーストリアの『ヒトラーの贋札(The Counterfeiter)』の4作品だが、『Katyn』が本命視されている。

 ワイダ監督は、全5作品が暴力、戦争、歴史を描いたものだと指摘する。「おそらく人々は、地球上のある地域で起こる潜在的な紛争を恐れているのだろう。映画監督には、予知能力があるということかもしれない」

 ワイダ監督はこれまでにも、1975年の『約束の土地(Ziemia Obiecana)』、1979年の『ヴィルコの娘たち(Panny z Wilka)』、1982年の『鉄の男(Czlowiek z Zelaza)』で3度、同部門へのノミネートを果たしているが、受賞には至っていない。2000年には、アカデミー名誉賞を受賞している。(c)AFP/Stanislaw Waszak