【1月26日 AFP】22日に米ニューヨーク(New York)の自宅で起きた俳優ヒース・レジャー(Heath Ledger)の急死は、レジャーの遺作となるバットマン(Batman)シリーズ最新作『ダークナイト(Dark Knight、原題)』の製作会社であるワーナー・ブラザース(Warner Brothers)のプロモーション戦略にも影響を及ぼしそうだ。

■まったく新しい「ジョーカー」

 レジャーは作品の中でバットマンの宿敵「ジョーカー」を演じているが、その演技をめぐっては生前からさまざまな声が飛び交っていた。

 すでに公開されている予告編とポスターには、恐ろしいメークをほどこしたレジャーが写っており、まったく新しい解釈の「ジョーカー」像が描かれていることがわかる。

 アナリストらは米国で7月公開予定の『ダークナイト』について、レジャーの最後の演技に興味津々の映画ファンの間で大いに期待が高まるはずだとみている。

 だが、この夏の目玉となる本作のプロモーションに当たり、レジャーの悲劇的な死を金もうけの手段にしていると見られないよう、製作サイドは難しい選択を迫られているようだ。

 レジャー演じる「強烈な」ジョーカーは、初期プロモーション戦略の要だった。

■レジャー急死でプロモーション戦略変更か?

 興行成績調査会社Exhibitor Relationsのアナリスト、ジェフ・ボック(Jeff Bock)氏は今後のワーナーのプロモーション戦略について、「ワーナーにとっては難しい状況になった。当初はレジャーの演技に評判が集まっていたので、その点をプッシュするつもりだっただろう。だが、これから180度の方向転換を強いられるはずだ」と語る。

 映画公開前に俳優が亡くなることはこれまでにもあった。たとえば、『THE CROW/ザ・クロウ(The Crow)』(1994)のブランドン・リー(Brandon Lee)、『ジャイアンツ(Giant)』(1965)のジェームズ・ディーン(James Dean)などがそうだ。だがボック氏は、『ダークナイト』のようなケースは前例がないと指摘する。

「今までにないケースだ。(ワーナーはプロモーション戦略において)レジャー自身と彼の演技に追悼の意を示すと同時に、今夏の目玉映画になるということを念頭に置かなければならない。バットマン・シリーズはハリウッド映画の中でも特に重要な作品だ。過去5作で、16億ドル(約1720億円)の全世界興行収入をたたきだしている。ワーナーはプロモーション戦略を一から練り直さなければならないだろう」(ボック氏)

■ポスターの写真差し替えもありうる

 Movies.com編集者のルー・ハリス(Lew Harris)氏は、映画のポスターに使用しているレジャーの写真を主演のクリスチャン・ベイル(Christian Bale)の写真に差し替えることになるだろうと予測した。

「いかなる方法であっても悲劇を利用していると見られては困るだろうから、製作会社はひどく神経質になるはずだ。それに今後は、レジャー演じるジョーカーが写ったポスターを街中で目にしてあまりいい気持ちはしないだろう」(ハリス氏)

 当のワーナーは、今のところプロモーション戦略の変更については、明らかにしていない。

■「遺作だからこそ見たい」ファン心理

 一方、レジャーの写真差し替えといった戦略変更は、プロモーションの失敗につながる危険性があるとみる意見も聞かれる。エンターテインメント業界紙バラエティ(Variety)のスチュアート・レビン(Stuart Levine)氏は次のように語った。

「これがシリーズ1作目なら、ファンの注目はベイルがどんなふうにバットマンを演じるかに集まっただろう。だが本作では、注目はレジャー演じるジョーカーに集まる。すでに予告編などで垣間見られるジョーカーだけでも、相当な評判になっている。あんなメークをしたレジャーを見て、ファンは仰天したはずだ。だからレジャーの姿を隠すのは、間違ったプロモーション戦略だとわたしは思う。悲しいことだが、レジャーが亡くなったからこそ映画を見てみたいと思う人もいるだろう。それに、バットマン・ファンなら、彼の演じるジョーカーに興味があるはずだ」(レビン氏)

 また、今後のプロモーション戦略がどうなるにせよ、ボック氏は、興行成績の可否と関係なく、『ダークナイト』には「ある種のもの悲しさ」が永遠につきまとうことになるだろうと指摘する。
 
「『ダークナイト』が今夏の目玉であることには変わりはない。だが、本作に常に複雑な感情がつきまとうのは避けられないだろう。夏の映画業界は幸福感に包まれるものだが、今年の夏はよきにつけ悪しきにつけ、幸福感に代わってある種のもの悲しさに包まれそうだ。それは避けられないと思う」(ボック氏)(c)AFP