【1月18日 AFP】アフガニスタン政府は16日、同国を舞台にした映画『君のためなら千回でも(The Kite Runner)』の上映を禁止すると発表した。少年が性的暴行を受けるなどの暴力シーンが民族間の緊張を刺激する可能性があるためという。

 文化・青年省のNajib Malalai氏はAFPの取材に対し、当該シーンは「民族的な背景」を持つため、国内上映を許可できないと語った。民族間の対立による内戦や、90年代のタリバン(Taliban)による支配などを経験した同国では、民族問題は大きな火種だ。

『君のためなら千回でも』では、少数民族ハザラ人(Hazara)の少年が、多数派パシュトゥン人(Pashtun)の少年に性的暴行を受けるシーンがある。

 そうした事実を踏まえてMalalai氏は、「社会の秩序を脅かすものと考え、上映禁止とした。ある民族の人間が別の民族の人間に危害を加えると、原因はその民族にあると勘違いされる。そういう事態は容認できない。アフガニスタン人が登場する映画でも、それがわれわれの宗教や文化とまったく矛盾するものでなければ、上映は通常許可される。しかし、この作品には民族的背景を持った性的暴力シーンが含まれている」と語った。

 国営アフガンフィルム(Afghan Film)の責任者も、「アフガニスタンの国民は、こういったシーンを受け入れられないだろう」として上映禁止に同意している。 

 同作品は、米国在住のアフガニスタン人作家カーレド・ホッセイニ(Khaled Hosseini)による2003年のベストセラー(邦題:『カイト・ランナー』)を映画化したもの。1973年の国王追放から、ソ連の軍事介入、旧支配勢力タリバンの登場まで、アフガニスタンの激動の時代を舞台にしている。ハザラ人は、パシュトゥン人率いるタリバンによる虐殺も受けた。

 作品に出演した4人の少年は、問題のシーンを理由に暴力行為を受ける恐れがあるとして、前年12月に母国を離れ、米国に移住することを余儀なくされている。

 国内のDVD販売店の中には海賊版を取り扱う店も多いが、前年12月に米国で公開され、オスカー獲得の呼び声も高い同作品の海賊版はまだ出回っていない。

 宗教や文化にまつわる微妙な問題は、これまでにも国内で様々な抗議行動を引き起こし、暴動に発展することもあった。

 2006年には、イスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)の風刺画が問題となり、数日間にわたる抗議行動が行われている。2007年には、米軍が配布したサッカーボールにコーランの一節を含むサウジアラビアの国旗が描かれ、抗議の対象となった。また、ハザラ人への侮辱だとしてインド制作の『カブール・エクスプレス(Kabul Express)』が上映禁止となったが、裏ルートでDVDが入手できたため、やはりデモに発展した。さらに12月には、識字率が低いアフガニスタン人の中で影響力を持つ宗教指導者らが、ある音楽番組を「不道徳」「反イスラム的」として、ハミド・カルザイ(Hamid Karzai)大統領に放映中止を求めている。(c)AFP/Beatrice Khadige